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No. 16691 ライオンランパント エナメルワーク コイン ペンダントヘッド
直径 2.45cm、厚み 2.5mm、ペンダントヘッドの重さ 6g、硬貨は1962年鋳造ブルガリアコイン、一万五千円

東欧のスラブ諸語を表記するのに用いられるキリル文字が使われているので、あまり見慣れなくて読みにくいのですが、立ち姿のライオン、いわゆるライオンランパントの足元に見える文字を判読すると「ブルガリア」と記されています。 ガラスカバーが覆っていて、ミントコンディションのエナメルコインを保護しているのも良いでしょう。

エナメルワークの美しさに惹かれて求めました。 黒地に金文字、ライオンランパントはオレンジ色のボディーにゴールドの鬣(たてがみ)です。 周りの麦穂は緑と黄緑で、ブルーの星と帯飾りも見えています。 これだけ繊細なエナメル細工は専門の職人さんによる手仕事ならでは出来栄えと言えましょう。 色使いが見事で、奥ゆきの感じられるエナメルワークには光に当たると反射光が綺麗です。 

イギリスで見つけた品なので、作られたのもイギリスである可能性が高いと判断しています。 おそらくイギリス人のライオンモチーフ好きが背景にあって、このブルガリアコインにライオンランパントのデザインが入っていることから、エナメル細工のアクセサリーに加工されたものと思います。

エナメルワークとは日本語で言うと「七宝焼き」のことで、金属にガラス質の釉薬を焼き付ける装飾技法です。 元々は古代エジプトに起源を持ちますが、奈良時代には日本にも伝来しました。 その後、七宝焼きは日本で技術的な発展を遂げ、ヴィクトリア時代の英国では、逆に日本の技術が大いに研究もされました。 このあたりの経緯は、「英国アンティーク情報」欄の「10.エルキントン社のシルバープレート技術と明治政府の岩倉使節団」後半に解説がありますので、ご参考まで。 

このエナメルワークの金文字について、もう少し敷衍して申し上げますと、上の方に書いてあるのは、カタカナ表記すると「ナロードナ リパブリカ」と読めます。 初めの単語を英語のアルファベットに準じて読むと「ハポードハ」のように思えますが、キリル文字の「H」は英語の「N」に、そしてキリル文字の「P」は英語の「R」にほぼ対応しているので、発音は「ハポードハ」ではなくて「ナロードナ」になるというわけです。 このあたりはポワロ・シリーズの『オリエント急行殺人事件』にも関係ある知識になります。 というわけで、此処に書かれている言葉は、世界史の授業でナロードニキ運動というのを習ったことがありましたが、それの派生語と分かります。

「ナロードナ リパブリカ」と「ブルガリア」を合わせて、日本語にすると「ブルガリア人民共和国」と書いてあることが判明します。

ブルガリアについては以下の情報もご参考まで。
『ブルガリアはこんな国』:http://www.bg.emb-japan.go.jp/jp/bg_jap_relations/about_japan/index.html

余談ながら、上記の情報の中に「1989年11月に共産党政権が崩壊し、」というくだりがありますが、この時にたまたまブルガリアの首都ソフィアを訪れていたことを思い出します。

首都 ソフィアの名前は四世紀にローマ皇帝コンスタンティヌス帝によって建立された初期のキリスト教会堂であるセント・ソフィア寺院に由来します。 この時の旅はブルガリアのソフィアから夜汽車に乗ってトルコのイスタンブールへ行く途中でした。 往時のオリエント急行の最終区間に該当します。 夜行列車の出発時間までずいぶん時間があるので、ソフィアの街を観光していたのです。 

当時はまだ共産主義の時代で、外国人旅行者が自由に観光することは許されておらず、私たち夫婦には国営旅行会社のブルガリア人旅行ガイドが付き添っていました。 ソフィアの街の中心部にはセント・ソフィア寺院や旧共産党本部ビルが五百メートルも離れず隣接しています。 小春日和のぽかぽかした午後で、セント・ソフィア寺院の周りではアイスクリーム売りのスタンドが出ていたり、静かな街の雰囲気を覚えています。 

ところが、後から新聞で知ったのですが、その日は四十年以上続いた共産党政権が崩壊した日だったのです。 ブルガリアの体制崩壊が起こっていたわけで、東欧の民主化革命がブルガリアに及んだ時だったわけですが、そんなことには気がつかないほど静かなソフィアの様子が、今思うと印象に残っています。

ライオンランパント エナメルワーク コイン ペンダントヘッド


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