英国 アンティーク 英吉利物屋 トップ(取り扱い一覧)へ 新着品物 一覧へ アンティーク情報記事 一覧へ 英吉利物屋ご紹介へ

No. 14864 英国王室紋章レリーフ スターリングシルバー スプーン
長さ 15.3cm、重さ 46g、ボール部分の最大幅 4.35cm、ボール部分の長さ 5.1cm、深さ 1.1cm、柄の最大幅 1.5cm、柄の最大厚み 4mm、1936年 バーミンガム、Roberts & Belk作、一万四千八百円

銀が厚く出来ていて、かなりしっかりした銀のスプーンです。 紋章レリーフの分だけ銀が厚くなっているわけですが、そうでなくとも、そもそもボール部分の銀が厚いです。 そして、柄が最大で4ミリの厚みとなっていることも、全体の持ちはかり46グラムに寄与しているようです。 手にしてみると、ズシッときていい感じです。 ボール裏面にはライオンとユニコーンの英王室の紋章レリーフがあり、これも大きくてゴージャスです。

柄の裏面には四つのブリティッシュ ホールマークがしっかり深く刻印されているのも、この品の良い特徴です。 ホールマークは順にRoberts & Belkのメーカーズマーク、シェフィールド アセイオフィスの王冠マーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1936年のデートレターになります。

1936年は「王位を賭けた恋」で有名な英国王エドワード八世即位の年にあたっており、国を挙げての祝賀ムードから記念銀器が作られたことが、このアンティークの背景になっております。 そして、在位期間があまりにも短かったエドワード八世ものは、アンティークとしてはレアものの範疇に入ります。

例えてみると、阪神タイガースの優勝を見越して記念グッズを作っていたら、土壇場で阪神は優勝を逃してしまい、困ってしまった業者さんのお話と事情がよく似ています。 エドワード八世は国王に即位したけれども、国民をあげて盛り上がっていく戴冠式を前に退位してしまったのでした。 

まあ、それから七十年以上の年月が流れますと、幻の戴冠式に向けて作られた記念銀器が、レアものとして尊ばれるようになっております。

エドワード八世は1936年に英国王になりましたが、その年の12月には退位を宣言し、この年は英国中が大揺れとなりました。 それというのも、エドワード八世は当時41歳の独身で王位につき、英国民はさて次はお妃探しと盛り上がったのですが、彼には皇太子時代からシンプソン夫人という愛人があったのです。 シンプソン夫人はアメリカ国籍で、夫のある身、さらには離婚歴もありということで、英国国教会や当時の英国政府が黙って見過ごせることではなかったわけです。 不倫を解消せよと迫る世論に対して、国王が下した決断は王位を捨ててシンプソン夫人をとるというものでした。 

英国王が王位を捨てるとのニュースによって、イギリス国民の間には外国から宣戦布告を受けたような衝撃が走ったそうです。 ロンドンのシティでは電話回線がパンクしましたし、ウエスト・エンドの商業地でもこれまた機能不全に陥って、人々は夕刻の号外を奪い合い、バッキンガム宮殿に出入りする王族を一目見ようと殺到し、ロンドンは蜂の巣を突いたような騒ぎとなったのでした。

エドワード八世は、アメリカや日本を含めた諸外国では、「王位を賭けた恋」を成就させた王様として人気があります。 彼は晩年に至るまで一度も自らの決断を後悔したことはなかったと伝えられています。

ちなみにヴィクトリア女王の時代が終わって20世紀に入ってからの英国王は、1901年のエドワード七世、1910年のジョージ五世、1936年のエドワード八世、1937年のジョージ六世、そして1952年から現在のエリザベス二世になります。

ついでながら、『エッジウェア卿の死』(アガサ・クリスティ作)をご存知でしょうか。 英国国教会の離婚に対する考え方が、重要な作品背景となっていて、クリスティーはこの小説を1933年に書いております。 エドワード八世とシンプソン夫人の交際は1931年から続いていたので、お后問題でますます英国国教会と、もめるだろうと分かっていたことでしょう。 おそらく、そんな王室事情もヒントになって、書かれたミステリーなのだろうと思うのです。

実際に起こった王室問題と、クリスティのミステリー小説、やはりどちらか一方よりも、あわせて親しむと、七十年前の人々の考え方がよりよく分かってきますし、歴史やアンティークに対する理解が深まるように思います。

上部の王冠の上には小さなライオンがいて、左側には立ち姿のライオン、右側にはユニコーン(一角獣)がひかえています。 ライオンとユニコーンの足元には「Dieu et mon droit 」とありますが、その意味は「神と我が正義」です。 イギリスのアンティークに興味のある方なら、今後も見かけることがあるデザインと思いますので、この機会にその特徴を覚えておかれてもよいでしょう。 英国王室の紋章でありますが、広義にはイギリスを象徴するデザインともいえます。 例えば麹町の英国大使館に行かれたら、門柱辺りにもこのマークが付いているのが見られるでしょう。

中央の丸い部分に描かれているのは、右上にライオンの立ち姿でライオンランパント、左下にはハープクラウンド、そして左上と右下にはスリーライオンです。

この三頭のライオンは『ライオンハート(獅子心王)』の愛称で知られる12世紀の英国王リチャード一世時代からのエンブレムです。 リチャード一世は十年間の治世中に国内にいたのがたったの六ヶ月という王様で、海外での戦いに明け暮れた英国王でした。 戦いで名を馳せ、ライオンハートの称号を得て、その勇気と生きざまは騎士の模範とされています。

それにしても、数えてみると、大小あわせて九頭のライオンがいることは興味深く、イギリス人のライオン好きは古くからの伝統なのだなあと分かります。 そして現代では、この国の人たちの重要関心事ともいえるサッカーのイングランド代表のことを、スリーライオンと呼んだりします。 さらにイギリス人のパブ好きは有名ですが、英国に数万件あるパブのうち、もっとも多い名前のパブが「Red Lion」であることも偶然ではないでしょう。

一般に銀工房はその創業がヴィクトリア期というケースが多いのですが、メーカーの「Roberts & Belk」は創業1809年と、ジョージアンの時代にまで遡れる老舗シルバースミスで、評価の高いメーカーの一つと言ってよいでしょう。

英国王室紋章レリーフ スターリングシルバー スプーン




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