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43. 樹下美術館 :  -新潟県上越市- 齋藤三郎 倉石隆の作品を展示

今回は英吉利物屋でお求めいただいたシルバー ティースプーンで、ティータイムが楽しめるカフェ併設の美術館をご紹介いたします。



樹下美術館(じゅか びじゅつかん)は、上越ゆかりの作家である斎藤三郎氏の陶磁器と倉石隆氏の絵画を常設展示する美術館です。

併設のカフェでアンティーク カップ&シルバースプーンのティータイムもお楽しみください。 
英吉利物屋からご購入いただいたアール・デコ ティースプーン、透かし細工の綺麗なティースプーン、そしてエドワーディアン フェザーエッジのティースプーン等お使いいただいております。

以前に扱った英国アンティークが遠い日本へ渡って、今頃どうしているだろうかと、アンティーク店主としては気になるところです。 お客様からメールいただいて、アンティークのペンダントヘッドを身につけていたら周りの方から褒められたとか、パーティーでアンティーク ウォッチチェーンに注目が集まったとか、お茶会で使ったアンティークスプーンの評判が良かった等々、ご報告いただくのが楽しみです。

取り扱ったアンティーク シルバーウェアが、時と場所を変えて、素敵な美術館のカフェで新たな役割を担い、ご来館の皆様に喜んでいただいていると知り、嬉しく思っております。

樹下美術館(じゅか びじゅつかん)のホームページへ 
〒942-0157 新潟県 上越市 頸城(くびき)区 城野腰 451番地
TEL  025-530-4155 

 陶磁器展示ホール : 最奥を角型に抜き取り緩やかな自然光を入れています。 書画を含めて30〜40点展示しています。 別室に絵画展示ホールもあります。

 カフェ : 広めのカウンター板で、目線が低く落ち着きます。 目の前の芝生によく小鳥が来ます。

 デッキ : 四季折々の頸城(くびき)平野をご覧頂けます。 田園を渡る風をお楽しみください。

写真を拝見しますと、広大な頚城(くびき)平野の眺めが素晴らしいロケーションのようです。 

私の住むところもフィールドにあって空が広いので、似ているように思いました。 丘に登って夕陽を眺めると、左から右までずっと地平線が延びていて、なんだか地球って丸いんだと感じます。 日本から来た知り合いは、東京ではこんな広い空を見たことないとビックリしていました。 

樹下美術館は海にも近いようで、きっと日本海に沈む夕陽も美しいだろうと思います。

ご来館のお客様コメントをいくつかご紹介させていただきましょう。

・ 「友人と来ました。ゆっくりとした時間をすごすことができました。ボーとしたい時、いやしてくれる空間だと思います。」

・ 「東京からやってきました。友人に上越に行ったら「是非この美術館へ」とパンフレットをいただいていましたので楽しみに参りましたが期待以上でした。展示作品、室内、周りの雰囲気、景色、カフェの洋梨タルト、コーヒーまですべて心を幸せにしてくれました。しばらくはポストカードを見て思い出します。又必ず参ります。」

・ 「季節ごとに表情を変えるお庭を楽しみながらのコーヒータイムは、日頃の忙しさを忘れさせてくれる心安まる時間です。」

・ 「お抹茶が新登場とのコトで、いただきましたが美味しいですね ! でも、やっぱりコーヒーも美味しくて、カップで頼んでしまいました !! 美味しすぎ !! ゆっくりとできるこの空間が大好きです。また来ます。」

・ 「トーストとオレンジジュースを頂き、前庭をながめ、優雅なひとときを楽しむ。ああ生きていてよかった。ここに来れて良かった。そう感謝する今である。」

・ 「ゆかりある陶器、絵画、あたたかい空間、おもてなし、時の経つのを忘れました。(神奈川県葉山町 女性)」

・ 「ケーキやコーヒーは、すっごくおいしいです。絵に合った周りのけしきもよかったです。」

私のコメント選定が、『花より団子』 的ですみません。 ただ、多くの方々がコメントされているように、周りの景色と美術館がベストマッチして、全体としてゆったり出来る空間になっているのだろうと想像します。 私も機会がありましたら、是非とも寄せていただきたいです。


それでは最後に、樹下美術館のカフェでお使いいただいているシルバーウェアをご紹介させていただきます。

 ミントンのシノワズリと フェザーエッジ ティースプーン。 樹下美術館カフェでは、こんな感じでお茶をいただけます。

エドワーディアン スターリングシルバー フェザーエッジ オールドイングリッシュ パターン ティースプーン六本セット
長さ 10.8cm、重さ 9g、ボール部分の最大幅 2.2cm、柄の最大幅 1.1cm、1911年 ロンドン アセイオフィス、Wakely & Wheeler作

柄のデザインはブライトカットのヴァリエーションで、フェザーエッジと呼ばれ、光の反射を美しく誘います。
裏面には「Wakely & Wheeler」のメーカーズマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、ロンドン レオパードヘッド、そしてデートレターの刻印があります。

この品を作ったシルバースミスの「Wakely & Wheeler」は、その創業が1791年という老舗です。 創業者はジョン・ライアスという人でしたが、19世紀の後半には創業家のライアスファミリーは仕事から退いて、当時のパートナーであったウェイクリーとウィーラーによって事業が引き継がれていきました。 ガラード、エルキントン、マッピン&ウェッブといった有名メーカー&リテーラーに、ライアス時代からずっとシルバーウェアを納入していたWakely & Wheelerは、ジョージアンとヴィクトリアンを通しての優良シルバースミスの一つと言ってよいでしょう。

フェザーエッジ オールドイングリッシュ パターンの歴史は古く、イギリスのシルバーウェア史に現れたのは、今から二世紀半ほど前になります。 より具体的には、この装飾的なフェザーエッジの技法が初めて登場したのは1770年代のことでしたが、それは良質の鋼(はがね)が生産可能となってエングレービングツールの性能が向上したことによります。

似たような装飾技法にブライトカットがあり、フェザーエッジはブライトカットの派生系と言われます。 しかし、二つは歴史的にほぼ同時期に作られ始めていることから、二つの技法の関係は派生関係というよりも、兄弟姉妹の関係に近いとも考えられます。 

ブライトカットは、ファセット(彫刻切面)に異なった角度をつけていくことによって、反射光が様々な方向に向かうようにした彫刻技法です。 ファセットは平面状で一種類、それを互い違いに角度を変えて彫っていきます。 

フェザーエッジはU字谷とV字谷を隣合わせに彫っていく手法です。 V字谷のファセットは平面で向かい合う二面の角度が違っているところはブライトカットに似ています。 加えてU字谷のファセットは凹面状なので、当然ながらその反射光も様々な方向に向かいます。 V字谷のシャープな反射光に対して、U字谷の反射光は穏やかな感じで、二種類の輝きのコントラストに特徴があります。

一本の彫刻刀で作業を行うブライトカットに対して、フェザーエッジではU字とV字の二種類の彫刻刀を使いますので、その意味でブライトカットの進化系あるいは派生系がフェザーエッジと言われるのかも知れません。

オールドイングリッシュ パターンについては、アンティーク情報欄にあります「4.イングリッシュ スプーン パターン」の解説記事もご参考ください。

もうすぐ百年という年月が経過しようとしており、1910年まで続いたエドワーディアン時代の翌年に作られていますが、デザイン上の区分としてはエドワーディアン アンティークと言ってよいでしょう。

英国で「アンティーク」という言葉を厳密な意味で使うと、「百年以上の時を経た品」を指すことになります。 そんな訳で、英語で言うと「It will become an antique next year. (この品は来年アンティークになります。)」という言い方をされることがあります。 アンティークコレクターにとっては、やはり百年という年月の経過は大きなメルクマールになりますので、上記のような会話がなされる機会も多いのです。 

気に入った古いものを使っていくうちに、その品が自分の手元で‘アンティーク’になっていくことは、コレクターの喜びとも言えますので、この銀スプーンには、そんな楽しみ方もあるかと思うのです。

歴史を振り返ってみますと、写真のアンティークが作られた頃の出来事として、1912年:タイタニック号氷山に衝突して沈没とか、あるいは日本では明治時代が終わって大正時代になった年であり、夏目漱石が『こころ』で、その時代を描いた頃のことであって、ずいぶん昔のことなのです。 アンティークを手にしていると、百年に近い時の経過があらためて身近に感じられるのは楽しいことです。

スターリングシルバー フェザーエッジ オールドイングリッシュ パターン ティースプーン


アール・デコ スターリングシルバー ティースプーン 六本セット
長さ 11.5cm、重さ 12g、ボール部分の長さ 3.8cm、最大横幅 2.5cm、ボールの深さ 0.5cm、柄の最大幅 1.2cm、1943年 バーミンガム アセイオフィス

柄の裏面にはそれぞれ四つのブリティッシュ ホールマークがしっかり深く刻印されており、それらはメーカーズマーク、バーミンガム アセイオフィスのアンカーマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1943年のデートレターになります。

直線的な幾何学デザインのスターリングシルバー ティースプーンで、アール・デコの系譜上にある品と言ってよいでしょう。 あまり使われた様子がなく、コンディション良好なティースプーンセットです。

この品が作られた1943年は第二次大戦の最中になります。 英国は戦勝国とはなったものの、大変な時期であったことは間違いありません。 ロンドンはドイツから弾道ミサイルの攻撃を受けたり、爆撃機による空襲も頻繁にありました。 私の住むところはロンドンの北の郊外で爆撃の目標にはならなかったようですが、近所のお年寄りの話では、ロンドンを空襲した帰りの爆撃機が、残った爆弾を抱えていると重いので、帰路の燃料節約の為に落とし捨てていくコースに当たっていて、怖かったとのこと。 

とは言うものの、茶道具のような不要不急の品を純銀で作っていたとは、当時のイギリスは結構余裕もあったんだなあ、戦争といっても切羽詰った感じが伝わってこないなあ、とも思うのです。

余談ながら、近所のゴルフ場でシニアゴルファーのおじいさんからお話を伺ったことがあります。 そのゴルフ場は1935年にオープンして七十年以上の歴史があるのですが、そのおじいさんが子供の頃に初めてプレーしたのが1942年だったそうです。 当時は戦争中でガソリンは貴重だったので、芝刈り用のトラクターが使えず、羊を放牧してフェアウェーの芝の長さを調整していたとのこと。 「たまに羊にボールが当たって大変だったよ。」とおっしゃっていました。

そのおじいさんはイギリス貴族というわけではなくて、いわゆる庶民にあたる方と思いますが、イギリスでは戦争中も普通の人たちがゴルフをしていたのかーと。 ガソリン不足で芝刈りが大変だったのは分かるけど、日本のおじいちゃん、おばあちゃんから聞いてきた戦争の苦労と比べると、どうでしょうか? 戦争というものは、勝つ側と負ける側では、やはり桁違いな相違があるものだと思った次第でした。

写真の銀ティースプーンが作られた当時のイギリスについて、もう一つご紹介しましょう。 1946年4月に発表されたエセル・ローウェル氏の『現在の意味』という論文に、第二次大戦中のロンドンにおける空襲後の一婦人の話があります。

『爆撃の一夜が明けてから、一人の婦人が砲撃された我が家の戸口に幾度も行って、心配そうに往来をあちこち見ていた。 一人の役人が彼女に近づいて、「何か用ならしてあげましょうか。」

彼女は答えた、「ええ、どこかその辺に牛乳屋さんはいませんでしたか。うちの人が朝のお茶が好きなものですから。」

過去は敵意あり、未来は頼みがたい、が、道づれとなるべき現在は彼女とともにそこにあった。 人生は不安定であった。 しかし、…… 彼女の夫は一杯の朝の茶をほしがった。』(引用終り)

「絶対的現在(=永遠の今)」にしっかり足をつけて立つという意味で、私はこのお話が好きです。 そして、樹下美術館のカフェで一杯のお茶を楽しまれる時の心持と通じることがあるようにも思うのです。





 ロイヤルドルトンのタンゴと 透かしのティースプーン。 樹下美術館のカフェにて。

ピアストワーク スターリングシルバー ティースプーン 六本セット
長さ 11.2cm、重さ 11g、透かし柄の最大幅 1.55cm、柄の最大厚み 2mm、1968年 ロンドン アセイオフィス

ティーストレーナーのハンドルでよく似た透かしデザインを見たことがあり、このタイプのハンドピアストワークは、英国シルバーウェアにおける定番デザインの一つと言ってよいでしょう。 柄元の最大厚みは2ミリほどあって、ティースプーンとしては厚めでしっかり出来ています。 裏面のホールマークは順に、メーカーズマーク、1968年のデートレター、ロンドン レオパードヘッド、そしてスターリングシルバーを示すライオンパサントになります。

ピアストワーク スターリングシルバー ティースプーン with オリジナルケース



こうして眺めてみますと、樹下美術館のカフェでは、百年前のアンティークに始まって、第二次大戦中の品、そして日本の高度経済成長期(=英国の停滞期)の品と、それぞれに特徴のある三つの時代の銀スプーンをお使いいただいていることが分かります。 一世紀前の日本といえば、日清・日露戦争そして更なる大戦争へと息つく暇もない状況にありました。

その当時から百年という年月が経過して、今ではこうしてアンティークを眺めていられるということは、幸せなことです。 日本もずいぶん変わりました。 英国BBCや米国タイム誌による世界数十カ国でのアンケート調査によれば、日本国の好感度は世界の国々の中でもトップクラス、というよりも一番か二番というほどの好意をもって、よその国々から見られております。

二十一世紀になって、テロの脅威など、世界はきな臭くなってきました。 イギリス人のある友人が言うには、今日では世界を旅するのに、ブリティッシュ パスポートを持っていると、ちょっと危ない感じがするとのこと。 もし持ち歩くパスポートが選べるなら、ジャパニーズ パスポートがいいなあ、と言っておりました。 これはまんざら日本人である私へのお世辞というわけではなくて、今日の日本国は世界の国々の中でも好感度が高く、周りの人から敵意を持たれることが少ないので安全だということを、その友人も感じているわけなのです。

百年前のアンティークを手にして、歴史を振り返ってみると、隔世の感があるなあと、あらためて思います。

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