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8832 ヴィクトリアン スターリングシルバー ハノーベリアン パターン ティースプーン セット(四本組)
長さ11.7cm、一本の重さ10g、1885年 ロンドン、James Wakely & Frank Wheeler作、一万八千円

このティースプーンは綺麗なエングレービングが施されているわけでもなく、一見したところ目だった特徴のないプレーンなティースプーンに見えます。
しかし時代考証的なアンティークシルバー好きな方にとっては珍しく、いろいろと考えさせられる品でもあります。

この品はヴィクトリア後期の1885年の作ですが、ティースプーンの柄先が手前に曲がっているハノーベリアンパターンを採用しています。
ハノーべリアンパターンというのは1710年頃から約半世紀にわたって好まれたクラシックパターンです。その後はテーブル セッティングマナーが変わって、それまで伏せてセッティングされる習いであったスプーンが、今日と同じように表向きに置かれるようになったこともあって消えていったパターンです。

と言うわけで、ヴィクトリア後期のハノーベリアンパターンは珍しく、あまり見かけません。
そしてこのティースプーンの作者はちょっとした思い付きでスプーン柄先を手前に曲げたわけではなく、はっきりと確信犯的に当時から見て約一世紀前のクラシックパターンを再現させたという証拠がまだあります。
写真二番目のホールマークを見ると、スプーン柄のボールに近い部分に刻印が並んでいるのがお分かりいただけると思います、これはボトムマーキングと呼ばれます。
ジョージ三世(1760年−1820年)以降の後世のスプーンでは、刻印しやすく柄先に近い部分にホールマークを刻つのが普通です。
このボトムマーキングは1700年代前半のハノーべリアンパターンの頃のやり方なのです。

顧客の求めに応じたものか理由は分かりませんが、ヴィクトリアン後期にしっかりした時代考証に基づいてクラシックパターンのリバイバルが行われていたことは面白く思います。

英国のスプーンパターンの変遷については、アンティーク情報欄の「4.アンティーク イングリッシュ スプーンパターン」の解説記事をご覧ください。