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No. 6998 ヴィクトリアン ゴールデン ジュビリー ラッキー シリング ペンダントヘッド with チェーン
銀貨の直径 2.4cm、全体の重さ 9g、銀貨は1887年製、SOLD

イギリスではシリング銀貨に穴を開けただけのペンダントヘッドを時々見かけます。 アクセサリーにしては、あまりに作りが簡単なので、どうしてだろうかと不思議に思っていたのですが、最近この品の背景が二つの別々の方面から分かってきましたので、ご紹介してみましょう。

トーマス・ケイズという人の研究によると、船舶や鉄道の発達によって国外への旅が増えた19世紀には、銀貨に穴をあけて、ジャケットの裏に縫い付けておくなどして、旅先での非常用通貨にするということが行われていたそうです。 当時は多くの国で金銀を本位通貨とする貨幣制度が採用されていたので、世界の大国であったイギリスの銀貨は、いわばトラベラーズチェックのように、英国外でもある程度は通用したというわけなのです。

そうしますと、今日見かける写真のようなペンダントヘッドは、元々はアクセサリーとして作られたわけではなく、こうしたトラベラーズチェックの代わりだった可能性があります。 

さらに加えて、『裸の王様』、『みにくいアヒルの子』、『人魚姫』などで有名なアンデルセンの作品の中に、19世紀半ばに書かれた『シリング銀貨』というおとぎ話があります。 外国旅行に出かけた英国紳士の財布にあった一枚のシリング銀貨が、異国の地で財布からこぼれてしまい、いろいろな人たちを巡りめぐって、最後には元々の持ち主であった英国紳士のもとに戻ってくるというストーリーです。 

物語の中で、シリング銀貨に穴をあけて糸を通し「Lucky Shilling」として身に着けるという話が出てきます。 シリングは大き過ぎず、小さ過ぎず、ペンダントヘッドにちょうど良いサイズであることと、シルバーという素材は幸福に通じることから、遠いヴィクトリアンの時代よりラッキーシリングとして好まれてきた背景があるようです。 

これら二つの話を合わせて考えてみると、ヴィクトリア時代には穴あきシリングが、私たちが今思う以上に多くあったのではないでしょうか。 そして、巡りめぐってそれを手に入れた人たちの中には、「Lucky Shilling」の側面を重視して、ペンダントヘッドにされていくものも少なからずあったろうと思うのです。

わざわざアクセサリーにするには作りが簡単過ぎますが、さりとて銀貨に穴をあける仕事は誰もが出来るほど容易くはありません。 初めはトラベラーズチェックとして使われ、後にはラッキー シリングとして大切にされてきたと考えれば、今日こうした品を時々見かけることに納得がいくのです。

ヴィクトリア女王戴冠50周年のジュビリー記念銀貨を使ったペンダントヘッドになっています。

表に描かれているのはヴィクトリア女王の横顔です。 女王の若かりし頃はナショナル ポートレートギャラリーにある肖像画でご覧いただけるのですが、以下に写真がありますのでご参考まで。 「英国アンティーク情報、14.Still Victorian

クイーン ヴィクトリアが若干18歳の若さで英国王位を継承したのは1837年のことで、この年から六十余年に及ぶヴィクトリア時代が始まり、戴冠50周年のジュビリー イヤーには、盛大なお祝いが行われました。 ヴィクトリア女王は在位期間が長かったことと、その時代は英国の国力が格段に伸張した時期と重なっていた為に、イギリス史の中でも特にポピュラーな国王となりました。

裏面にはヴィクトリア女王時代に好まれたシールド リバースのデザインに採用されています。 描かれているのは、右上にライオンの立ち姿でライオンランパント、左下にはハープ クラウンド、そして三頭のライオンは『ライオンハート(獅子心王)』の愛称で知られる12世紀の英国王リチャード一世時代からのエンブレムです。 銀貨の下部には1887年の数字が見えます。

写真三番目は、裏面のデザインがよく分かるように、光量を絞って撮ってみましたのでご覧になってください。



裏面の様子