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No. 6957 スターリングシルバー ティーストレーナー
長さ 11.2cm、重さ 29g、ボール部分直径 5.8cm、ボールの深さ 1.8cm、1940年 バーミンガム、一万六千円

今から七十年前に作られたスターリングシルバーのティーストレーナーです。 古い品ではありますが、コンディションがよくて綺麗なシルバーです。 

持ち手の厚みは1.5mmほどあって、しっかり出来た品と思います。 また、糸鋸を引いたギザギザ跡が残る透かし細工も丁寧な仕事がしてあります。

側面部分に四つのブリティッシュ ホールマークがしっかり深く刻印されているのも好印象です。 ホールマークは順にメーカーズマーク、バーミンガム アセイオフィスのアンカーマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1940年のデートレターです。

この品が作られた1940年は第二次大戦の最中になります。 英国は戦勝国とはなったものの、大変な時期であったことは間違いありません。 ロンドンはドイツから弾道ミサイルの攻撃を受けたり、爆撃機による空襲も頻繁にありました。 私の住むところはロンドンの北の郊外で爆撃の目標にはならなかったようですが、近所のお年寄りの話では、ロンドンを空襲した帰りの爆撃機が、残った爆弾を抱えていると重いので、帰路の燃料節約の為に落とし捨てていくコースに当たっていて、怖かったとのこと。 

とは言うものの、茶道具のような不要不急の品を、それも純銀で作っていたとは、当時のイギリスは結構余裕もあったんだなあ、戦争といっても切羽詰った感じが伝わってこないなあ、とも思うのです。 ただ、余裕で茶道具を作っていたかどうかは別として、イギリス人にとって、お茶はとても大事であることの証左かも知れません。

お茶とイギリス人といえば、こんな経験も思い出されます。 ある朝、駅に向かって歩いていたら、駅から戻ってくる人がいて、「Security Alert で、今さっき駅は閉まってしまった。あなたも家に帰ってお茶にした方がいいだろうよ。」と言われたことがあります。 セキュリティ アラートと言うのは、警戒警報のようなもので、不審物など見つかると駅が一時的に閉鎖されることがあるのです。 当該駅は閉鎖されますが電車自体は走っているわけで、日本的な感覚ですと、次に近い駅までバスなりタクシーで行ってでも職場に向かいそうに思うのですが、そうではなくて、「お茶にしよう。」と言うのが、なんとも英国風で、軽いカルチャーショックを覚えた記憶があります。

写真のアンティークが作られた当時のイギリスについて、近所のゴルフ場でシニアゴルファーのおじいさんからお話を伺ったことがあります。 そのゴルフ場は1935年にオープンして七十年以上の歴史があるのですが、そのおじいさんが子供の頃に初めてプレーしたのが1942年だったそうです。 当時は戦争中でガソリンは貴重だったので、芝刈り用のトラクターが使えず、羊を放牧してフェアウェーの芝の長さを調整していたとのこと。 「たまに羊にボールが当たって大変だったよ。」とおっしゃっていました。

そのおじいさんはイギリス貴族というわけではなくて、いわゆる庶民にあたる方と思いますが、イギリスでは戦争中も普通の人たちがゴルフをしていたのかーと。 ガソリン不足で芝刈りが大変だったのは分かるけど、日本のおじいちゃん、おばあちゃんから聞いてきた戦争の苦労と比べると、どうでしょうか? 戦争というものは、勝つ側と負ける側では、やはり桁違いな相違があるものだと思った次第でした。

写真の銀製ティーストレーナーが作られた当時のイギリスについて、もう一つご紹介しましょう。 1946年4月に発表されたエセル・ローウェル氏の『現在の意味』という論文に、第二次大戦中のロンドンにおける空襲後の一婦人の話があります。

『爆撃の一夜が明けてから、一人の婦人が砲撃された我が家の戸口に幾度も行って、心配そうに往来をあちこち見ていた。 一人の役人が彼女に近づいて、「何か用ならしてあげましょうか。」

彼女は答えた、「ええ、どこかその辺に牛乳屋さんはいませんでしたか。うちの人が朝のお茶が好きなものですから。」

過去は敵意あり、未来は頼みがたい、が、道づれとなるべき現在は彼女とともにそこにあった。 人生は不安定であった。 しかし、…… 彼女の夫は一杯の朝の茶をほしがった。』(引用終り)

「絶対的現在(=永遠の今)」にしっかり足をつけて立つという意味で、私はこのお話が好きです。 





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