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No. 6884 ヴィクトリアン スターリングシルバー フィドルパターン ティースプーン
長さ 14.8cm、重さ 28g、ボール部分の長さ 5.0cm、最大横幅 3.15cm、ボールの深さ 0.8cm、柄の最大幅 1.7cm、1853年 ロンドン、George W Adams(=Chawner & Co)作、八千円

今から百五十年以上前に作られたスターリングシルバーのフィドルパターン ティースプーンです。 柄の厚みは最大で3ミリほどありますし、28グラムという持ちはかりは、ティースプーンとしてはかなりなもので、銀の重みを感じさせてくれる重厚なヴィクトリアン アンティークと思います。

この品が作られた1853年と言えば、英国史では六十余年続いたヴィクトリア時代の初期、日本史においてはペリーの黒船来航の年にあたり、『太平の眠りを覚ます上喜撰(蒸気船)、たった四杯(四艘)で夜も眠れず』の狂歌が流行った幕末になりますので、かなり古いアンティークであることがお分かりいただけるでしょう。 

ちなみに「上喜撰」とは当時の上等なお茶のブランド名ですから、幕末史で有名な上記の狂歌と写真のティースプーンは1853年という年を介して、ティーという共通項を持っていることになり、アンティークと歴史が互いに交差しあう興味深い偶然と思うのです。

ヴィクトリア時代にはティースプーンとして使われた品ですが、全長が14.8センチにボール部分の長さが5.0センチもあり、実際のところ現代的な感覚からはティースプーンとしてはかなり大きい感じです。 この品の重さは通常のティースプーンの範疇を超えていると思いますので、普段使いの一本として、デザートスプーンやプリザーブスプーンとしてもお使いいただけるのではないでしょうか。 また、お茶の席でティースプーンとして見かけると、その存在感が印象的で、裏面のブリティッシュホールマークとも併せて、珍しくて話題性のあるアンティークとなります。

このスプーンのパターンは柄の形がヴァイオリン(Fiddle)に似ていることから、フィドルパターンと呼ばれます。 もともとは18世紀のフランスで人気だったこのフィドルパターンは、19世紀に入った頃からイギリスでも次第に流行っていきました。 フィドル パターンについてはアンティーク情報欄「4.イングリッシュ スプーン パターン」の解説記事も併せてご覧ください。

ジョージ アダムス(=Chawner & Co)はフランシス ヒギンスと並び立つ有力シルバースミスで、英国アンティークシルバーの解説書なら、必ずといってよいほどその名前が言及されるヴィクトリア時代の銀工房ですので、その名前は覚えておかれてよいでしょう。

Chawner & Coは1815年にWilliam Chawnerが始めた工房です。
創業から1883年にAldwincle & Slaterに買収されるまで、何回か名前を変えています。

William Chawner 1815-1834
Mary Chawner 1834-1841
Mary Chawner & Co. 1842-1845
Chawner & Co 1845-1883

創業者William Chawner亡き後は、妻Maryが会社を継ぎました。 1845年以降はMaryの娘Anneの夫であったGeorge William Adamsが会社を継ぎましたが、1883年にはGWAが引退して、会社をAldwincle & Slaterに売却しています。

写真二番目のホールマークは順に、GAマークはGeorge W Adamsのメーカーズマーク、ロンドン レオパードヘッド、スターリングシルバーを示すライオンパサント、1853年のデートレター、そしてヴィクトリア女王の横顔がデューティーマークです。 メーカーズマークのそばには小さなジャーニーマンズ マークも見えます。 ジャーニーマンズ マーク(Journeymanは徒弟の上で、マスターの下に位置する。)と言うのは、シルバースミスの工房の中で誰が手掛けた仕事かを示す職人ごとのマークです。 ジャーニーマンズマークの分析はアンティークシルバーの研究の中でも最前線にあって、こういうことを地道に調べている専門家がいるイギリスはとても面白い国とも思うのです。