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No. 6832 ジョージ三世 スターリングシルバー オールドイングリッシュパターン デザートスプーン with クレスト
長さ 17.6cm、重さ 40g、ボール部分の長さ 6.2cm、ボール部分最大幅 3.7cm、深さ 0.9cm、1810年 ロンドン、一本一万三千円

もうすぐ二百年という時が経とうとしているスターリングシルバー オールドイングリッシュパターン デザートスプーンです。 ジョージアンの中でも1760年から1820年までのジョージ三世時代は長かったので、アンティークにおいても、この時代の品には「ジョージ三世...」と接頭辞のように国王の名前を冠することが多いのです。

薄れていますが、柄先には王冠とユニコーンのクレスト(紋章)が彫られています。

英国でアンティークという言葉を厳密な意味で使うと、百年以上の時を経た品物を指します。 気に入った古いものを使っていくうちに、その品が自分の手元で‘アンティーク’になっていくことは、コレクターの喜びとも言えますが、このデザートスプーンが作られたのは1810年ですから、余裕でアンティークのカテゴリーに入るどころか、あと五年で"ダブル"アンティークになるわけで、そんな辺りにもアンティークファンとしての楽しみ方がある品と言えましょう。

写真三番目でホールマークは順に、メーカーズマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、ロンドンレオパードヘッド、1810年のデートレター、そしてジョージ三世の横顔はデューティーマークです。 五本ともそれぞれ五つのブリティッシュ ホールマークがすべてくっきり深く刻印されているのも、この品の良い特徴です。

かなり古いスプーンをお求めいただいたお客様から、ジョージアンの時代に銀器を使っていた人たちはどんな人たちだったのかというご質問をいただきました。 遠い昔に銀器を使っていたのは豊かな人たちであったに違いありませんが、この問題はよく考えてみると、もっと奥の深い問題であることが分かります。

ジョージアンの時代に銀器を使っていた人たちは、百年ほど前のヴィクトリアン後期に銀器を持っていた人たちよりも、一段と社会階層が上のお金持ちだったと思われます。 ジョージアンの時代には、まだまだ銀は社会の上層階級の占有物であったからです。 ヴィクトリア期には英国の経済力も大いに伸長したので、ヴィクトリアン後期の英国では銀器が新興富裕層にまで普及し、その裾野が広がりました。 つまり銀器を使った昔のお金持ちといっても、二百年前と百年前ではその意味合いや程度が大きく異なるのです。

「International Hallmarks on Silver」という本に、過去の銀世界生産量推計という面白い資料がありました。 その資料によれば、このデザートスプーンが作られた1810年当時の年間生産量は540トンほどで、ヴィクトリア時代最後の1900年は5400トンとあります。 時代と共に生産量が十倍増しているわけですが、逆にみると、より昔の時代における銀の希少性について、お分かりいただけるのではないでしょうか。

ジョージアンとヴィクトリアンでは銀のスプーン一本を取ってみても、そのステータスシンボルとしての価値はかなり異なったようですが、もっと詳しく知るためには、英国社会史や経済史の理解が不可欠になりましょう。 これからも少しずつ調べて、個々のアンティークが持つ時代背景について、英吉利物屋サイトでお伝えしていければと思っています。

オールドイングリッシュ パターンについては、「英国アンティーク情報」欄の「4.イングリッシュ スプーン パターン」を、そしてジョージ三世とデューティーマークについては、「5.シルバーホールマークとジョージアンの国王たち」解説記事の後半もご覧ください。

アンティークのシルバーウェアは現代のものよりサイズが大きいので、昔のデザートスプーンは、今日的にテーブルスプーンとして使うとちょうどよいのではないかと思っています。 もちろんあの大きなテーブルスプーンをメインに使うのがいいという方もあろうかと思いますが、毎日の普段使いとしてはアンティークのデザートスプーンをメイン使いにされるというのは如何でしょうか。