アンティーク 英吉利物屋 トップへ

No. 6739 エドワーディアン スターリングシルバー クリスティング スプーン
長さ 15.6cm、重さ 28g、ボール部分の最大横幅 3.35cm、柄の最大幅 1.7cm、1903年 シェフィールド、Sutherland & Rhoden Ltd作、一万五千円

六十余年続いたヴィクトリア時代が終ってまだ間もない頃の、今から百年以上前に作られたスターリングシルバー クリスティング スプーンです。 フラワーエングレービングの中にいる小鳥の可愛らしさに惹かれて求めました。 

花札の「梅に鶯(うぐいす)」を思わせるデザインで、この品が作られた時代を考慮すると、ジャポニスムのモチーフブックが参考にされていることが想像されるのですが、当時の英国人がまねをすると、こんな可愛い小鳥になるのかと、妙に感心したりもします。 

小鳥の表情が優しくて、小花のあいだで楽しげな様子を見ていると、こちらも楽しい気分になれるエドワーディアン アンティークと思います。

ブリティッシュ ホールマークがしっかり深く刻印されているのもよいでしょう。 写真二番目のホールマークは順に、シェフィールド アセイオフィスの王冠マーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、1903年のデートレター、そして Sutherland & Rhoden Ltd のメーカーズマークになります。 

この品を作ったメーカーの「Sutherland & Rhoden Ltd」は、Allan Mackenzie Sutherland と George Guirren Rhodenの二人をパートナーとするシルバースミスで、シェフィールドに銀工房を構えていました。 このクリスティングスプーンが作られた1900年当時には仕事の幅が広がって、シルバーウェアの製作のみならず、ゴールドスミスとして金製品も手がけるようになっていました。 写真三番目に見えるメーカーズマークの「GGR」は「Sutherland & Rhoden Ltd」の一方のパートナーであるGeorge Guirren Rhodenのイニシャルです。

1853年のペリー来航以来、日本の工芸が広く西欧に紹介され、英国シルバーの世界にも日本の伝統的なモチーフとして蝶などの虫、飛翔する鳥、扇、竹、さくら等のデザインが取り入れられていきました。1870年代、80年代のこうした潮流はオーセンティック ムーブメントとして知られています。

サムライの時代が終わった頃、1870年代前半における英国のジャポニスム取り込みについては、英国アンティーク情報欄の「10.エルキントン社のシルバープレート技術と明治新政府の岩倉使節団」記事後半で詳しく解説していますのでご覧になってください。

その後のジャポニスム研究は、モチーフブックなどの成果となって、以下のような書籍が次々と発表されていきます。
「Art and Art Industries of Japan(1878年、 Sir Rutherford Alcock)」、 「A Grammar of Japanese Ornament and Design(1880年、Cutler)」、「Book of Japanese Ornamentation(1880年、D.H.Moser)」

そして1880年代の後半にはジャポニスム モチーフブックの集大成である「Japanese Encyclopedias of Design(Batsford)」が出て、Japanese craze(日本趣味の大流行)のピークとなりました。

ヴィクトリアン後期の英国にあってはジャポニスムが新鮮で、大きな顧客需要があり、モチーフブック等の基礎資料も充実していたことが、今日私たちが日本趣味な英国アンティークシルバーにお目にかかれる理由なのです。 百数十年も前に多くのイギリス人たちが日本に大いなる関心を持っていたことには驚かされます。