トップページへ戻る

No. 6357 スターリングシルバー ジャムスプーン
長さ 13.8cm、重さ 25g、ボール部分最大幅 3.2cm、ボールの深さ 7mm、1910年 シェフィールド、John Round & Son Ltd 作、一万六千円

今から九十五年前のエドワーディアンの時代が終わった年に作られたスターリングシルバー ジャムスプーンです。 ボールの柄元がカットされたタイプのジャムスプーンは、大陸ヨーロッパ諸国ではあまり見かけないので、英国風なジャムスプーンと言ってよいでしょう。

ボール部分のエングレービングは彫刻線の強弱がよく効いて美しい仕上がりになっています。 ブライトカット様の彫り、微細な直線カットを重ねた彫り、ジグザグカット、そして細かなドットカットの配列など、様々な技巧が施されていて、アンティークハント用のルーペが一本あれば楽しみも増すと思います。

柄の表裏のデザインはキングスパターンで、柄先のシェル模様がメルクマールの一つになりますが、ボール裏面の柄に近い辺りにも三つめの大きなシェル模様があります。 このシェルパターンは、もともとは12世紀にスペインの聖地 St.ジェイムス オブ コンポステラへ向かう巡礼者たちが、彼の紋章であったシェルを身につけて旅したことから、クリスチャンシンボルとして、シェルが取り入れられていったのが始まりです。 15世紀以降はセラミックスやシルバーの分野で、このシェルモチーフが繰り返し取り上げられて今日に至っています。

柄の裏面には、シェフィールド アセイオフィスのクラウンマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、1910年のデートレター、そしてJohn Round & Sonのメーカーズマークと、ブリテッィシュホールマークがしっかり深く刻印されています。

英国で「アンティーク」という言葉を厳密な意味で使うと、「百年以上の時を経た品」を指すことになります。 そんな訳で、英語で言うと「It will be an antique in five years time.(この品はあと五年でアンティークになります。)」という言い方をされることがよくあります。 アンティークコレクターにとっては、古い品が自分の手元で、正式なアンティークに昇格するのを見ていけること自体に楽しみを感じる方が多いので、上記のような会話がなされる機会も多いのです。 

メーカーのJohn Round & Son Ltd.はシェフィールドの大きなシルバースミスで、アンティークとしても今日でもよく見かける有名メーカーの一つです。 ジョン ラウンドによってヴィクトリア時代初期の1847年にシェフィールドで創業され、当初はスプーンとフォークのメーカーでした。 職人技の素晴らしさとデザインの優雅さで、次第にその評価を確立して、息子のエドウィンをパートナーとして迎える頃には、銀器なら何でもこなすシェフィールドの大メーカーに成長していました。 第一次大戦を境にしてイギリスの国力が衰えていくと、多くのシルバースミスも衰退していった中で、John Round & Sonは1962年までシルバースミスとして仕事を続けていたというのも珍しい例と思います。