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No. 6342 ヴィクトリアン ソブリン金貨 ペンダントヘッド
ペンダントヘッド最大直径 3.4cm、重さ 12g、ソブリン金貨の直径 2.2cm、金貨は1899年鋳造、9カラットゴールド フレームは 1897年 ロンドン、八万円

ヴィクトリアン ソブリン金貨のペンダントヘッドで、金貨の下部には1899の鋳造年が見えます。 フラワーデザインのフレームは9カラットゴールドで、留め具部分には、メーカーズマーク、9カラットゴールドを示す「375」マーク、ロンドンレオパードヘッド、そして1897年のデートレターが刻印されています。 

金貨のデザインはSt.ジョージがドラゴンを退治している様子で、裏面はヴィクトリア女王のポートレートになります。 ソブリン金貨とはヴィクトリア時代の最高額貨幣で、1ポンドにあたり、金純度は91.6%の22金です。 ソブリンとは君主という意味ですが、今から五百年以上前の1489年に1ポンド金貨が発行されて、当時の国王ヘンリー七世の肖像が刻まれていたことから、以来イギリスの最高額貨幣はソブリンと呼ばれるようになりました。

お花デザインのフレームは立体感のある作りで、金貨を取り巻くブライトカット様の枠組みも効果的です。 フレームが美しいこと、そしてフレーム自体も古いこと、さらにはソブリンが作られた1899年という年も、ヴィクトリアンの終わり頃で、かつ1800年代という響きに惹かれました。

最高額貨幣であったソブリン金貨はヴィクトリア時代にいったいどのくらいの価値を持っていたのでしょうか、それを知るためには、当時と現代の物価水準をも検討しないと答えが出てきません。

Roger Bootle氏の「The Death of Inflation」という本によれば、ヴィクトリア時代は長期にわたって物価が安定した時代だったようです。 例えば、ロンドンタクシーの前身である乗合馬車の初乗り運賃は1694年に1マイル当り1シリング(つまり現代の0.05ポンド)と設定され、この運賃がヴィクトリア時代を通じて変わらなかったことが紹介されています。 今日、ロンドンタクシーで1マイル乗ると、渋滞がなければ3.5ポンドほどですが、実際には5ポンドほどかかるのではないでしょうか。 この比較でみると、今日の物価はヴィクトリア時代と比べて70倍から100倍になっていると考えられます。 

また、シャーロック・ホームズの話には、ヴィクトリア時代の給料や家賃についての記述があるので検討してみると、ロンドン ロンバート街の株式ブローカーの週給が3ポンドとか、郊外のこぎれいな別荘の年間家賃が80ポンドなどとあり、この面から見てもやはり、ざっくり100倍とみてよさそうです。

そうしますと、ソブリン金貨とは当時のサラリーマンが二日働いて得られる金額であって、ポンド建では今日の100ポンドほどにあたり、円換算して二万円ぐらいと言うことになります。 サラリーマンが二日働いて得られる金額と書きましたが、これは都会のロンドンのことですし、当時としては比較的高給かもしれません。 『特命全権大使 米欧回覧実記(二)(英国編)』によれば、バーミンガムのペン製造工場について以下のような記述があります。 「ウェルス氏会社のペン製造場に至る。...中略...職人に婦人多し、その給料は一日に平均2シリング半、」 20シリング=1ポンドですので、こちらの事例で言えば、ソブリン金貨は八日分の給料に当たります。

昔の物価水準や個々の物の値段について分かってくると、アンティークや当時の時代状況により親しみが湧いてきます。 その上であらためてドイルやディケンズ、そしてブロンテの小説を読んでいけば、英国アンティークと、それを取り巻く時代背景について理解がいっそう深まることでしょう。

『特命全権大使 米欧回覧実記(二)(英国編)』については、英国アンティーク情報欄の「10.エルキントン社のシルバープレート技術と明治新政府の岩倉使節団」の記事後半の解説もご参考ください。





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