トップページへ戻る

No. 6171 ヴィクトリアン クラウン銀貨のペンダントヘッド
ペンダントヘッド直径 4.9cm、銀貨の直径 3.8cm、全体の重さ 35g、厚み 3.5mm、銀貨は1895年鋳造、一万九千円

ヴィクトリアンのクラウン銀貨を使ったペンダントヘッドです。 表はヴィクトリア女王の横顔で、裏面のデザインはSt.ジョージがドラゴンを退治している様子です。 どこを見ても500円や100円といった数字の記述がないのは不思議な気がしますが、クラウン銀貨はヴィクトリア時代の5シリング(=0.25ポンド)にあたります。

遠い昔の銀貨というのは、トレジャーハントに通じるロマンを感じますし、クラウン(Crown=王冠)という響きも気に入っています。 また、大きくて銀の重みを感じさせてくれるゴージャス感が好きで、グッドラック アイテムとして求めました。 

重くて豪華な印象からも想像はつきますが、クラウン銀貨は当時としても相当額であったようで、そのために使用頻度が低いままに保存されて今に至っているコインもあるようです。 ではいったい、クラウン銀貨はヴィクトリア時代にどのくらいの価値を持っていたのでしょうか、それを知るためには、当時と現代の物価水準をも検討しないと答えが出てきません。

Roger Bootle氏の「The Death of Inflation」という本によれば、ヴィクトリア時代は長期にわたって物価が安定した時代だったようです。 例えば、ロンドンタクシーの前身である乗合馬車の初乗り運賃は1694年に1マイル当り1シリング(つまり現代の0.05ポンド)と設定され、この運賃がヴィクトリア時代を通じて変わらなかったことが紹介されています。 今日、ロンドンタクシーで1マイル乗ると、渋滞がなければ3.5ポンドほどですが、実際には5ポンドほどかかるのではないでしょうか。 この比較でみると、今日の物価はヴィクトリア時代と比べて70倍から100倍になっていると考えられます。 

また、シャーロック・ホームズの話には、ヴィクトリア時代の給料や家賃についての記述があるので検討してみると、ロンドン ロンバート街の株式ブローカーの週給が3ポンドとか、郊外のこぎれいな別荘の年間家賃が80ポンドなどとあり、この面から見てもやはり、ざっくり100倍とみてよさそうです。

そうしますと、クラウン銀貨とは当時のサラリーマンが半日働いて得られる金額であって、ポンド建では今日の25ポンドほどにあたり、円換算して5000円ぐらいと言うことになります。

昔の物価水準や個々の物の値段について分かってくると、アンティークや当時の時代状況により親しみが湧いてきます。 その上であらためてドイルやディケンズ、そしてブロンテの小説を読んでいけば、英国アンティークと、それを取り巻く時代背景について理解がいっそう深まることでしょう。


追記:クラウン銀貨はサラリーマンが半日働いて得られる金額と書きましたが、これは都会のロンドンのことですし、当時としては比較的高給かもしれません。 『特命全権大使 米欧回覧実記(二)(英国編)』によれば、バーミンガムのペン製造工場について以下のような記述があります。 「ウェルス氏会社のペン製造場に至る。...中略...職人に婦人多し、その給料は一日に平均2シリング半、」 こちらの事例で言えば、クラウン銀貨は二日分の給料に当たります。

『特命全権大使 米欧回覧実記(二)(英国編)』については、英国アンティーク情報欄の「10.エルキントン社のシルバープレート技術と明治新政府の岩倉使節団」の記事後半の解説もご参考ください。



裏面の様子