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No. 6129 アール・デコ スターリングシルバー ティーストレーナー
長さ 14.5cm、重さ 40g、ボール部分直径 5.8cm、ボールの深さ 1.7cm、1944年 シェフィールド、James Dixon & Son作、二万九千円

直線と楕円が交錯する幾何学デザインのスターリングシルバー ティーストレーナーで、アール・デコの系譜上にある品と言ってよいでしょう。 手仕事で糸鋸を引いた跡が残る繊細な透かし細工は、仕上がりの良いクラフツマンシップで、一流シルバースミスの作であることが感じられます。 裏面のホールマークを確認してみると、「James Dixon & Son」の作であることが分かり、なるほどと納得します。

手仕事で糸鋸を引いていくのですから、職人さんの優れた技術と多くの時間がかかります。 現代のシルバースミスの方からお聞きしたことがありますが、昔の時代の手間がかかった丁寧な仕事は、現代の労働コストが上昇した英国では、大変なお金がかかり、もはや同じようには出来ないとのことでした。

写真二番目で見えるように、柄の裏面にはブリティッシュ ホールマークが、しっかり深く刻印されているのもこの品のよい特徴です。 ホールマークは順に、「James Dixon & Son」のメーカーズマーク、シェフィールド アセイオフィスのクラウンマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1944年のデートレターになります。

メーカーの「James Dixon & Son」は、1806年創業、家族的な経営で、職人さんの中には、親、子、孫…と5世代にもわたり、ここで銀製品を作り続けた方もいらしたようです。 シェフィールドで創業後、順調に発展し、1873年にはロンドン進出を果たしました。 1900年頃にはロンドンのお店は5つに増えていました、また1912年にはオーストラリアのシドニーにも支店を開いています。 1851年のロンドン万国博覧会には多くの作品を出品したとの記録が残っており、その後20世紀初頭にかけて、海外での展覧会にも出展し、パリ、メルボルン、ミラノ等で名声を博しました。 「James Dixon & Son」の作には良品が多いように思います。

それから、このティーストレーナーが作られた1944年は第二次大戦の終わり頃になります。 英国は戦勝国とはなったものの、大変な時期であったことは間違いありません。 戦争中のロンドンはドイツから弾道ミサイルの攻撃を受けたり、爆撃機による空襲も頻繁にありました。 私の住む町はロンドンの北の郊外で、直接には爆撃の目標にはならなかったようですが、近所のお年寄りの話では、ロンドンを空襲した帰りの爆撃機が、残った爆弾を燃料節約の為に捨てて帰るコースに当たっていて、怖かったとのこと。 とは言うものの、茶道具のような不要不急の品を作っていたとは、当時のイギリスは結構余裕もあったんだなあ、と思うのです。



柄の裏面