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No. 6115 クローバーのスターリングシルバー ブローチ with エナメルワーク
縦の長さ 2.1cm、最大横幅 3.4cm、厚み(ピン含まず) 1mm強、最大厚み(ピン含む) 7mm、重さ 5g、1900年、一万五千円

この品の一番の興味は裏面に彫られた 「Queen Visit 1900、April 4th-April 7th」にあります。 ここで言う「Queen Visit」とは、ヴィクトリア女王が1900年4月にアイルランドのダブリンを訪問したことを指していて、この品は女王の御幸を記念したブローチであることが分かります。 六十余年の長きにわたったヴィクトリア女王の治世は、女王が亡くなった1901年1月をもって終わるわけですが、このダブリン訪問は女王が国民の前に姿を現した最後の機会だったと言われています。

左の三つ葉のエナメルワークにはむらが感じられますが、これは後から出来た傷ではなくて、釉薬を焼き付ける工程で、エナメル部分に触れてしまった為と思われます。 

クローバーはアイルランドを象徴する植物で、その良い意味合いが好まれました。 百年以上前のブローチではありますが、製作意図がはっきりしていて、歴史的背景に裏付けられたアンティークであることは、この品の優れた特徴と言えるでしょう。

英語には「live in the clover (安楽、あるいは幸せに暮らす)」という言い回しがあり、こうしたクローバーの良い意味合いが、このアンティーク アクセサリーには込められています。 クローバーと幸せの繋がりについて、牧草の刈り入れをしていたファーマーの方から教えていただいたので、ご紹介しておきましょう。 牧草など植物の成長には土中の窒素分が必要ですが、クローバーは進化した植物で、大気中の窒素を直接に取り込んで養分に出来るのだそうです、そのため、クローバーのある畑は肥沃になります。 また家畜の飼料としてもクローバーの繊維質とプロテインが動物たちの成長に欠かせないのだそうです。 と言うわけで、クローバーに恵まれた農場は栄え、幸せに暮らしてゆけるということでした。

エナメルワークとは日本語で言うと「七宝焼き」のことで、金銀などの貴金属にガラス質の釉薬を焼き付ける装飾技法です。 元々は古代エジプトに起源を持ちますが、奈良時代には日本にも伝来しました。 その後七宝焼きは日本で技術的な発展を遂げ、ヴィクトリア時代の英国では、逆に日本の技術が大いに研究もされました。 このあたりの経緯は、「英国アンティーク情報」欄の「10.エルキントン社のシルバープレート技術と明治政府の岩倉使節団」後半に解説があります。 

このブローチが作られた頃の時代背景については、「14.Still Victorian」の情報記事もご参照ください。