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No. 5900 アスプレイ アール・デコ スターリングシルバー テーブルスプーン
長さ 21.8cm、重さ 76g、ボール部分の長さ 7.8cm、最大横幅 4.8cm、深さ 1.2cm、柄の最大幅 2.1cm、1936年 シェフィールド、Asprey & Co.Ltd作、二万九千円(4本あります-->3本あります-->1本あります-->SOLD)

直線的なアール・デコの幾何学デザインは、このテーブルスプーンが作られた1936年という時代をよく反映しています。 76グラムと持ちはかりがあって、大きくしっかりしたスプーンですから、テーブルスプーンとしてはもちろんのこと、サーバーとしてもお使いいただけると思います。 

裏面のホールマークは順に「Asprey & Co.Ltd」のメーカーズマーク、シェフィールド アセイオフィスの王冠マーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1936年のデートレターで、どの刻印もはっきりしています。 また、柄のボールに近い方には、「MADE IN ENGLAND」とも小さな文字で表記されています。

このアスプレイというお店は1781年創業、英国王室御用達のイギリスにおける宝飾店の最高峰になります。 『Jackson's Hallmarks』 ガイドブックでは、アスプレイについて「Justifiably famous for the quality of its products (もっともで当たり前のことながら、その品質の良さは有名である。)」と最上級のコメントをしています。

林望氏の『イギリス観察辞典』という本に「アスプレイ」の項目があり、面白く分かりやすい解説がありますので、詳細は本をご覧いただくとして、抜粋をご紹介しましょう。

『世の中にまた、アスプレイという会社ほどイギリス的なものもあるまいと思われる。この会社はまったく不思議な組織で、アスプレイ家が経営している王室御用達の店なのだが、いったい何を商っているのかというと、なんでしょうねぇ...おおまかに言えば雑貨屋さんなのだ。しかし、そんじょそこらの雑貨商とは全然違う。 

いかなる注文にも応じて、この会社の職人に作れぬものはない、...

「たとえば...」とアスプレイのスタッフは言った。「当社では、お客様にロンドンへお越し頂くのではなくて、ロンドンから職人を派遣して、お客様のご注文を承る、ということになってございます。」  そのようにしてカスタムメイドされた流麗な散弾銃が二挺一組で六万五千ポンドだそうである。 ざっと千三百万円! どうです、安いものでしょう。

むろんこの会社は「物」を作って売る会社ではあるけれど、その本当の趣旨はもう少し深いところにあって、たぶんそういうイギリス人魂とか、イギリスの夢とでもいうようなものを、「何かの形」に作って売ることを目的としているのであろう。』 以上抜粋。

それから、このアスプレイにはアンティークシルバーのコーナーもあります。 ロンドンのボンドストリートやニューボンドストリート沿いの老舗アンティーク店の中でも、とりわけアスプレイは高級店で、気軽さはありませんが、英国にお越しの際にはロンドンアンティークショップの最高峰を見てみるのも面白いかも知れません。

英吉利物屋ではヴィクトリアンの品を扱うことが多いので、1936年というと、なんだか新しいようにも感じます。 しかし、歴史年表を眺めてみると、写真のテーブルスプーンが作られた年に日本では二・二六事件が起こっています。 雪の降りしきる東京で陸軍の青年将校らが反乱を起こし、首相官邸などをおそって、高橋是清ら大臣のほか多くの政府高官を暗殺したり、重傷を負わせたりした大事件でした。 この事件以降の日本が太平洋戦争へと大きく舵をきっていく分水嶺となった出来事だったわけで、あらためて年月の経過を考えてみると、やはりずいぶんと昔の品だと思うのです。

1920年代、30年代はアール・デコの時代ですが、ヴィクトリアンあるいはエドワーディアンの伝統的で凝ったシルバーデザインとは大きく異なる変更が、この時代にあったことは、とても興味深いと思います。 ある解説によれば、このデザイン上の大きな断絶を生み出した最大の要因は第一次大戦だったと言われています。 当時の人たちはヴィクトリアンとエドワーディアンの輝かしい伝統の延長上に世界大戦が起こったことに大きなショックを覚え、ポストワーの時代には、昔の時代から距離を置きたいと望む風潮が強く、そこにアール・デコがぴたりとはまったというわけです。 

アール・デコについてはいろいろな説明がありますが、この解説はかなり言いえているように思います。 イギリスを隅々まで旅してみて、どんな小さな田舎の村にも、第一次大戦の戦没者を悼む記念碑が建っているのを知りました。 英国人の暮らしを根底から揺るがした出来事であったことが想像されるのです。





柄の裏面の様子

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