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No. 5286 ジョージ三世 スターリングシルバー オールドイングリッシュ パターン ブライトカット ティースプーン with クレスト
長さ 13.0cm、重さ 12g、ボール部分の長さ 4.3cm、最大幅 2.55cm、ボールの深さ 6mm、柄の最大幅 1.25cm、1803年 ロンドン、William Sumner作、一万円

元々は5282とセットで求めた品でよく似ていますが、シルバースミスと製作年が違うことから、5282セットが作られて十五年後に追加されたティースプーンであることが分かります。 詳しく見るとサイズも微妙に違っていて、この品は柄幅が少し大きく、重さは少し軽めです。

ライオンパサントには二通りあることをご存知でしょうか?
アンティーク スターリングシルバーの知識として知っておいても面白いと思います。

その前にまず、ライオンパサントの歴史について少し解説しておきましょう。 この歩きライオンのマークが初めて導入されたのは今から460年ほど前の1544年のことになります。 これは当時テューダー朝のヘンリー八世が行った低品位銀貨の鋳造と関係があります。 歴史上どこの国でも財政が逼迫してくると、悪貨を鋳造することがひろく行われてきました。 日本の江戸時代にも同じようなことがあったと思います。 銀貨と銀器がほぼ同等な価値を持っていた昔の時代にあっては、お上の定める低品位銀貨の価値でもって、高品位な銀器と交換されてしまっては、損してしまうことになります。 そこでその銀器が92.5%の銀純度であることを保証するマークとして、ライオンパサントが導入されたわけです。 

そして本題ですが、1820年までのライオンは横歩きの姿で顔だけは正面を向いています、そして1821年以降は顔も横向きのライオンになるのです。 厳密に言うと、Lion Passant Guardant(真正面向き)と、Lion Passant Profile(横向き)と呼んで区別されます。 アンティークハントの際に、ルーペでライオンマークを調べてみて、こっちを向いていたらかなり古いという使い方が出来るわけです。

Lion Passant Guardant マークが大きめなら、両眼と真ん中の口が分かりやすいでしょう。 マークが小さい場合には、口の位置が目印になりましょう。 このティースプーンは1803年の作なので、顔の真ん中に口が開いているのが分かります。

二百年以上の時を経たオールドイングリッシュ パターン ブライトカットのティースプーンです。 ジョージアンの中でも1760年から1820年までのジョージ三世時代は長かったので、アンティークにおいても、この時代の品には「ジョージ三世...」と接頭辞のように国王の名前を冠することが多いのです。

英国でアンティークという言葉を厳密な意味で使うと、百年以上の時を経た品物を指します。 気に入った古いものを使っていくうちに、その品が自分の手元で‘アンティーク’になっていくことはコレクターの楽しみですが、このスプーンが作られたのは1803年ですから、余裕でアンティークのカテゴリーに入るどころか、すでに"ダブル"アンティークともなっているわけで、やはりこれほどの古さは大きな魅力と言えましょう。

柄の表面に施されたエングレービングは幾何学模様ではありますが、機械で切った彫刻線ではない手仕事なので、よく見るとエングレービングの幅にブレがあったりして、それがまた人の温かみを感じさせます。 以前にブライトカットのティースプーンをお買い上げいただいたお客様から以下のようなコメントをいただきましたが、二世紀前のティースプーンには、現代人を惹きつける何かがあるようにも思います。

『例のティースプーンは勉強の合間に入れるお茶に毎日欠かさず使っています。不思議なもので、使っていると、以前より輝きが出てきたように思います。 また、親しみというか、スプーンに不思議な親近感までわいてきて、ちょっと危ないのかと思ってしまうほどです....(^^;』

ブライトカットは18世紀の終わり頃から、英国においてその最初の流行が始まりました。 ファセット(彫刻切面)に異なった角度をつけていくことによって、反射光が様々な方向に向かい、キラキラと光って見えることからブライトカットの呼び名があります。 この装飾的なブライトカット技術が初めて登場したのは1770年代でしたが、それは良質の鋼(はがね)が生産可能となってエングレービングツールの性能が向上したことによります。

写真三番目のホールマークは順に、メーカーズマーク、ジョージ三世の横顔はデューティーマーク、1803年のデートレター、そしてスターリングシルバーを示すライオンパサントです。

それから、柄先にホールマークを刻印することをトップマーキングと言いますが、1800年前後にロンドンで作られたティースプーン等の小物シルバーウェアのトップマーキングにおいては、ロンドン レオパード ヘッドの刻印を省略することが当時流行っていました。 このティースプーンにもロンドン アセイオフィス マークがありませんが、同時期に作られたロンドン物ではよく見かける傾向なのです。 おそらくロンドン中心思考がこうした習慣を生んだと思われますが、1830年ぐらいから以降は改まりきっちり刻印されるようになっていきます。

オールドイングリッシュ パターンについてはアンティーク情報欄「4.イングリッシュ スプーン パターン」の解説記事を、またジョージ三世については「5.シルバーホールマークとジョージアンの国王たち」後半部分をご覧ください。








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