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No. 4277 ジョージアン スターリングシルバー オールドイングリッシュ パターン デザートスプーン with ボトム マーキング
長さ 18.3cm、重さ 32g、ボール部分の長さ 5.8cm、最大幅 3.5cm、ボールの深さ 0.9cm、柄の最大幅 1.5cm、1760年代から1770年代の英国製、一万九千円

ゆったりと丸みを帯びた柄の曲線ライン、ボール部分の細身なオーバルシェイプ、そして柄元にかけて厚みのある構造と、手にして眺めてみるにつけ、その優雅なフォルムに感心させられるアンティークです。 

さらに、このアンティークの特徴はフォルムの美しさだけに止まりません。 写真のデザートスプーンは、かなり古い品であることが、ボトムマーキングの手法から判断できることから、博物学的な興味の対象ともなりえるアンティークなのです。

写真二番目をご覧いただくと、ホールマークの刻印位置がボトムマーキングになっていることが分かります。 柄先の方に刻印することをトップマーキング、柄のボールに近い方に刻印することをボトムマーキングと言います。 今日ではトップマーキング多くて見慣れた刻印手法になりますが、昔の時代にはボトムマーキングが主流でありました。 

このファッションの変化は1780年代の半ばに始まったものですが、その背景にはシルバースミスの銀製品を作る技術進歩が関係しています。

トレフィッドパターンやドッグノーズパターンといった昔のスプーンは、強度の観点から柄幅の広いスプーンが主流で、柄幅の広いボトムに刻印することが一般でした。 ところが柄を細くしてもスプーン強度を保てる技術が進み、次第に柄のボトム部分が細くなっていったのです。 

そうなると、細くなったボトム柄に大きなホールマークを刻印することが難しくなり、場合によっては無理に刻印すると、スプーンシェイプを損なってしまうといった問題が起こってきたのです。

そしてついに限界点に達して、ボトムマーキングからトップマーキングへのファッションの変更が起こったのが1785年頃だったとされています。 

写真のデザートスプーンは限界点に達する少し前に作られたものと思われ、ホールマークが判読しにくいのですが、ルーペを使って詳細に調べてみると、ホールマークは順にメーカーズマーク、エジンバラ アセイオフィス アザミマークの一部、エジンバラ アセイオフィス キャッスルマークの一部、そして1760年から79年までのデートレターサイクルの一部であることが分かります。

オールドイングリッシュ パターンを含むイギリスのスプーンパターンについてはアンティーク情報欄「4.イングリッシュ スプーン パターン」の解説記事をご覧ください。

かなり古いスプーンをお求めいただいたお客様から、ジョージアンの時代に銀器を使っていた人たちはどんな人たちだったのかというご質問をいただきました。 遠い昔に銀器を使っていたのは豊かな人たちであったに違いありませんが、この問題はよく考えてみると、もっと奥の深い問題であることが分かります。

ジョージアンの時代に銀器を使っていた人たちは、百年ほど前のヴィクトリアン後期に銀器を持っていた人たちよりも、一段と社会階層が上のお金持ちだったと思われます。 ジョージアンの時代には、まだまだ銀は社会の上層階級の占有物であったからです。 ヴィクトリア期には英国の経済力も大いに伸長したので、ヴィクトリアン後期の英国では銀器が新興富裕層にまで普及し、その裾野が広がりました。 つまり銀器を使った昔のお金持ちといっても、ジョージアンの時代とヴィクトリアンの時代ではその意味合いや程度が大きく異なるのです。

「International Hallmarks on Silver」という本に、過去の銀世界生産量推計という面白い資料がありました。 その資料によれば、写真のテーブルスプーンが作られた1760年代ころには、銀の年間生産量は650トンほどで、ヴィクトリア時代最後の1900年は5400トンとあります。 時代と共に生産量が八倍以上に増しているわけですが、逆にみると、より昔の時代における銀の希少性について、お分かりいただけるのではないでしょうか。

ジョージアンとヴィクトリアンでは銀のスプーン一本を取ってみても、そのステータスシンボルとしての価値はかなり違っていたわけです。 もっと詳しく知るためには、英国社会史や経済史の理解が不可欠になりましょう。 これからも少しずつ調べて、個々のアンティークが持つ時代背景について、英吉利物屋サイトでお伝えしていければと思っています。






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