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No. 4187 Princes in the Tower、ミレー、ポストカード with King GeorgeX One Penny Red 切手
横の長さ 8.7cm、縦の長さ 13.8cm、1921年、三千円 SOLD

ヴィクトリア時代の画家でラファエル前派になるミレーは、夏目漱石が『草枕』でも取り上げている『オフィーリア』が代表作になりますが、写真のポストカードになっている『Princes in the Tower』もまた名作の一つです。

『オフィーリア』はシェイクスピアの『ハムレット』を題材にしており、こちらの『Princes in the Tower』は同じくシェイクスピアの『リチャード三世』からの作品ということでしょう。 

ポストカードにもいろいろありますが、原画でないとは云えども、やはり元の絵画が素敵なアンティーク ポストカードで、それに昔のスタンプと消印付なら、コレクターアイテムとなる要件を満たしていると言えましょう。

裏面をご覧いただくと、King GeorgeX One Penny Red 切手が使われているのもポイントです。 消印からは1921年3月31日の日付が読み取れます。 裏面の左の方には、「PRINTED IN ENGLAND」とあります。 また絵の題名である「Princes in the Tower」と作者の「Sir J. E. Milais」の名前も見えています。

『オフィーリア』も『Princes in the Tower』も、その背景には悲しい話がありますが、二つの絵を較べると、『Princes in the Tower』の方に私はより惹かれます。

余談ながら、漱石の『草枕』においては、全編を通じて『オフィーリア』が重要な役割を果たしていました。 ちょっと思い返してみたくなったので、読み直して該当箇所を抜き出してみました。 

「しばらくあの顔か、この顔か、と思案しているうちに、ミレーのかいた、オフェリヤの面影が忽然と出てきて、高島田の下へすぽりとはまった。」(草枕の第二章)

「余が平生から苦にしていた、ミレーのオフェリヤも、こう観察すると大分美しくなる。何であんな不愉快な所を択んだものかと今まで不審に思っていたが、あれはやはり画になるのだ。」(第七章)

「私が身を投げて浮いているところを、苦しんで浮いてるところじゃないんです、やすやすと往生して浮いているところを、奇麗な画にかいて下さい。」(第九章)

那美さんは茫然として、行く汽車を見送る。その茫然のうちには不思議にも今までかつて見た事のない「憐れ」が一面に浮いている。
「それだ!それだ!それが出れば画になりますよ」 と余は那美さんの肩を叩きながら小声にいった。余が胸中の画面はこの咄嗟の際に成就したのである(第十三章 =終章)

それから最後に、「36. イギリスの学習参考書から眺めた英国における古典教育(シェイクスピア 英語原典の読み方)」もご参考まで。

(追記)
うっかりしていて、漱石と『Princes in the Tower』のもっとダイレクトな関係に言及していませんでした。 『草枕』で『オフィーリア』を使った漱石は、同じくミレーの作品である『Princes in the Tower』も当然に見知っていたと思います。 漱石の作品でロンドン留学時代の見聞をベースにした『倫敦塔』には以下のような行があります。 

「一人は十三四、一人は十歳くらいと思われる。象牙を揉んで柔かにしたるごとく美しい手である。二人とも烏の翼を欺くほどの黒き上衣を着ているが色が極めて白いので一段と目立つ。髪の色、眼の色、さては眉根鼻付から衣装の末に至るまで両人共ほとんど同じように見えるのは兄弟だからであろう。」 『倫敦塔』 (明治37年=1904年)

漱石の記述にはドラロッシの絵画を参考にしたとあります。 確かにジェーン・グレイについては、ドラロッシの作はショッキングで胸が詰まります。 しかし、二人の王子については、ミレーが上と私は思うのです。 この絵からから伝わってくる、なんとも言えぬ緊張感が、見る人をして、その背景を知りたくさせるのではないでしょうか。

なお、『倫敦塔』を含めて漱石の作品は以下で読めます。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/1076_14974.html

夏目漱石の『倫敦塔』にガイフォークスの話も出てきます。 漱石の二年にわたるイギリス留学は1900年十月終り頃のロンドン到着で始まっておりますので、到着して間もない異国で、ガイフォークスの花火の音を耳にしたのだろう思います。

さらに、『漱石日記』を読みますと、漱石が倫敦塔へ行ったのは、まさにガイフォークスの頃だったことが分かります。 そんなわけで、『倫敦塔』を読んでおりますと、私は花火の音が聞こえてくるような気がするのです。

12. ボンファイヤー ナイト、 ガイフォークス デイ」もご参考まで。






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