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No. 20185 英国風 ギザギザ鋸(のこぎり)付 Mappin & Webb シルバープレート ケーキナイフ
長さ 27.3cm、重さ 103g、ブレードの最大幅 2.5cm、柄の最大幅 2.4cm、柄の最大厚み1.5cm 、鋸刃の最大幅 2mm、Mappin
& Webb作、一万八千円
がっちり大きくて、かなり立派なケーキナイフです。 写真三番目に見えるように、ブレード部分には「TRUSTWORTY」、「MAPPIN
& WEBB」、「SHEFFIELD」、「STAINLESS」とあります。
ナイフブレードとハンドルがユニタイズド構造になっています。 つまりは、しっかり溶接されていて繋ぎ目がない、一体構造となっているもので、これもさすがはマッピン&ウェブというポイントです。
背の部分に付いた鋸刃の最大幅は2ミリほどあって、これはもう頑丈なる大工道具といった風情でありますが、これがいかにも英国風。
ブレードの背はギザギザと鋸(のこぎり)状になっています。 ケーキをサーブするのに、なぜ鋸かとも思いますが、イギリスのケーキは表面を砂糖の塊のようなアイシングで、こてこてに固めたケーキが多く、実際のところ切り分けには鋸が必要なのです。
このアイシングたっぷりのイギリス風ケーキというのは、うーん、ちょっとなあ というお味。 日本でこんなケーキが出てきたら、誰もがきっと絶句することでしょう。 しっとりとした普通のケーキとは似ても似つかぬ、水気もなくぱさぱさしたスポンジに砂糖の塊が数ミリの厚さで塗りつけてあるケーキ?です。
ところがもっと驚くのは、イギリスの子供たちは日本やフランス風のしっとりと美味しいケーキよりも、ぱさぱさごわごわのこうしたケーキがお気に入りなことです。 うちの娘の友達が集まるパーティーで、私が手作りケーキを作ってもあまり喜ばれません。 近くのスーパーマーケットで買ってきたようなアイシングたっぷりのケーキがいいのです。
このアンティーク ケーキナイフのギザギザした鋸を見ていると、ずっと昔のヴィクトリアンやエドワーディアンのケーキもきっと凄まじいものだったのだろうと思います。 百年以上の年月をかけて、ブリティッシュ トラディショナル ケーキの伝統がイギリスの子供たちにしっかり根付いているのでしょう。
アンティークをきっかけに、その国の文化や伝統について考えてみるのは楽しいことだと思います。 英国アンティーク情報欄の「27.ホールマーク漏れと英国人気質」解説記事もついでにご覧ください。
メーカーは言わずと知れた有名工房ですが、このシルバースミスの歴史をご紹介しましょう。
マッピン関連のアンティークを扱っていると、「Mappin
& Webb」とよく似た名前の「Mappin Brothers」というシルバースミスに出会うことがあります。
「Mappin Brothers」は1810年にジョセフ マッピンが創業した工房で、彼には四人の後継ぎ息子がありました。四人は上から順にフレデリック、エドワード、チャールズ、そしてジョンで、年長の者から順番に父親の見習いを勤めて成長し、1850年頃には引退した父ジョセフに代わって、四兄弟が工房を支えていました。
ところが末っ子のジョンは、工房の運営をめぐって次第に兄たちと意見が合わなくなり、ついに1859年には「Mappin
Brothers」を辞めて独立し、「Mappin &
Co」という銀工房を立ち上げました。 以後しばらくの間、「Mappin
Brothers」と「Mappin & Co」は「元祖マッピン家」を主張しあって争うことになります。
しかし最初のうちは「Mappin Brothers」の方が勢力があったこともあり、1863年には末っ子ジョンの「Mappin
& Co」は「Mappin & Webb」に改名することとなりました。 Webbというのはジョンのパートナーであったジョージ ウェブの名から来ています。
「元祖マッピン家」問題では遅れをとったジョンでしたが、兄たちよりも商売センスがあったようです。 スターリングシルバー製品以外に、シルバープレートの普及品にも力を入れ、目新しい趣向を凝らした品や新鮮なデザインの品を次々と打ち出し、しかも宣伝上手だったのです。 ヴィクトリアン後期には当時の新興階級の間でもっとも受け入れられるメーカーに成長し、それ以降のさらなる飛躍に向けて磐石な基盤が整いました。
20世紀に入ってからの「Mappin & Webb」は、「Walker
& Hall」や「Goldsmiths & Silversmiths
Co」といったライバルの有名メーカーを次々にその傘下に収めて大きくなり、今日に至っています。 また、「Mappin
Brothers」ですが、時代の波に乗り切れなかったのか、1902年には「Mappin
& Webb」に吸収されてしまっています。 ただ、その頃には三人にお兄さん達はとっくの昔に引退しており、後を継いだエドワードの息子さんも引退して、マッピン家のゆかりはいなかったようです。 そうこう考えると、ジョージアンの創業で、ヴィクトリア時代に二つに分かれたマッピンが、エドワーディアンに入ってまた一つの鞘に戻れたことはよかったのかなとも思うのです。
シルバープレートウェアについては、アンティーク情報欄にあります「10.エルキントン社のシルバープレート技術と明治新政府の岩倉使節団」の解説記事もご参考ください。
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