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No.18194 スターリングシルバー ジャムスプーン ボールの柄元 カットタイプ
長さ 14.1cm、重さ 30g、ボール部分最大幅 3.55cm、ボールの深さ 5mm、1955年 シェフィールド、Ethel Mary Ventress作、一万五千五百円

今から六十年以上前の1955年に作られたスターリングシルバー ジャムスプーンです。 30グラムと持ちはかりがあって、銀をたっぷり使ったつくりに惹かれました。 柄の最大厚みも3ミリほどあって、持った感じもしっかりしており、銀の質感が心地よいテーブルウェアになっています。 

同程度の長さのジャムスプーンと比べて、銀の使用量は三割ほど多くなっており、より一段と重厚な雰囲気に仕上がっていると思います。 銀をたっぷり使ったジャムスプーンであることは、Very Britishなシルバーウェアとして特筆すべきポイントです。 

また、ボールの柄元がカットされたタイプのジャムスプーンは、大陸ヨーロッパ諸国ではあまり見かけないので、この点からも英国風なジャムスプーンと言ってよいでしょう。

フランスなど大陸ヨーロッパ諸国のシルバーウェアと比較して、しっかりとした重たい銀器が多いのは英国シルバーの特徴で、このジャムスプーンはイギリス人の好みをかなり意識して作られた品であると感じます。 エングレービングなしのシンプルデザインに加えて、銀を厚めに使ってこしらえてある様子を手にしてみたとき、私はそこにイギリスのドーバー城の質実剛健な雰囲気を感じました。

余談ですが、ディズニーランドのシンデレラ城のようなファンタジー風なお城は、フランスやドイツにはあっても、イギリスにはまず見当たりません。 イギリスのお城は敵から攻められにくそうな実用重視の四角っぽい要塞風が多いのです。 シルバーとお城は違いますが、英国人の質実剛健好みには、けっこう長い歴史がありそうに思えるのです。

柄の裏面にはブリテッィシュホールマークがしっかり深く刻印されています。 ホールマークは順に「Ethel Mary Ventress」のメーカーズマーク、シェフィールド アセイオフィスの王冠マーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1955年のデートレターです。 メーカーの「Ethel Mary Ventress」は、ティーストレーナーの分野ではイギリスの定番モデルを多く作っているシルバースミスなので、聞き覚えのある方も多いでしょう。

彫刻のないプレーンタイプになりますが、品のよいフォルムは十分に美しく、磨きぬかれたソリッドシルバーの輝きを楽しむのも、またよいのではと思わせてくれるアンティーク ジャムスプーンと感じます。

お客様から、なるほどと思わせていただいたお話がありますので、ご紹介させていただきましょう。 
『先日北海道では珍しい大型台風が通過し、短時間ですが停電となってしまいました。夜、仕方がないので古い灯油ランプを持ち出し屋内の照明としたのですが、以前手配いただいたティースプーンをランプの光にかざしてみたところ、ほの暗い明るさの中、スプーンのボウル内や彫刻の輝きにしばし見とれました。銀のアンティークには点光源の古い照明が合うようです。また昔の貴族が銀器を重用したのもうなずける気がします。』

私はアンティーク ランプ ファンで、早速に試してみたのですが、シルバーにアンティークランプの灯がほんのりと映って揺れているのを見ていると、なんだか心が落ち着くものでした。

英吉利物屋ではヴィクトリアンの品を扱うことが多いので、五十年前というと新しい感じもするのですが、当時を振り返ってみると、やはりずいぶんと古い歴史の中の時代であることが分かります。 

このジャムスプーンが作られた当時の英国首相は、第二次大戦を勝ち抜いたあのチャーチル首相です。 そしてこの頃にロンドンで起こったのが有名な「Great Smog」でした。 1952年12月5日、ロンドンでは折りからの寒さの中、風が止み濃い霧がたち込み始めました。 この霧はそれから3日間ロンドンを覆うことになります。 寒さで人々が石炭ストーブをどんどん焚くものですから、霧の原因となる微粒子核が撒き散らされて、霧がどんどん深くなっていったのです。 ものすごい霧で、2〜3メートル先はおろか、伸ばした自分の指先さえはっきり見えなかったと伝えられています。 映画館や劇場でもドアの隙間から霧が入り込んで、スクリーンや舞台が見えず、キャンセルが相次ぎました。 そして濃霧による交通事故や不清浄スモッグによる呼吸器障害のために、ロンドンで四千人もの死者が出る大惨事となったのです。 

昔からロンドンと言えば、霧の街として有名でしたが、「Great Smog」は長いロンドンの歴史の中でも最悪の出来事となりました。 そしてこれを契機に数年後の1956年には清浄空気法が定められることとなったのです。 石炭ストーブ時代の「Great Smog」のエピソードは今日では考えられない出来事ですが、この品が作られた時代に思いをいたす面白い手掛かりにはなるでしょう。

スターリングシルバー ジャムスプーン ボールの柄元 カットタイプ


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