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No. 15571 チューダーローズ(バラの花)&ドラゴン モチーフ スターリングシルバー ジャムスプーン
長さ 12.1cm、重さ 21g、チューダーローズの直径 1.45cm、最大幅 3.0cm、柄の最大厚み 2.5mm、1933年 シェフィールド、Thomas Bradbury & Sons作、八千円

イギリスにはバラ好きな方が多いので、バラの花モチーフは人気があるように思います。 写真の品はチューダーローズが柄先にデザインされたスターリングシルバーのジャムスプーンです。 バターナイフとトングのセットとして求めましたが、この品にはさらにドラゴンの彫刻があります。 作られたのは今から八十年ほど前の1933年であることがデートレターから判読できます。

イギリスで人気のある強い動物といえば、まずはライオンが挙げられますが、その次あたりに来るのがドラゴンでしょう。 例えばパブの名前をみても、イギリスで最も多いパブの名前は『レッドライオン』です。 ドラゴン関連のパブの名前というと、『セント・ジョージ&ドラゴン』があります。 歴史的にはもともとは、セント・ジョージの敵役として取り上げられてきたドラゴンですが、そういった事情を離れても、力強さの象徴としてドラゴン人気があります。

以下の説明もご参考まで。
http://www.igirisumonya.com/14960.htm
馬に乗ったセント・ジョージにドラゴンが踏みつけられているのは、ちょっとかわいそうですが、このドラゴンは王様の娘を生贄として食べようとした悪いドラゴンなので、仕方がありません。

裏面には写真二番目のようにブリティッシュ ホールマークがしっかり刻印されているのもよいでしょう。 ホールマークは順にシェフィールド アセイオフィスの王冠マーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、1933年のデートレター、そしてThomas Bradbury & Sonsのメーカーズマークになります。

シルバースミスの「Thomas Bradbury & Sons」は1736年にシェフィールドで創業した銀工房です。 英国のシルバースミスの多くはヴィクトリア時代に始まっている中で、それよりも百年以上古い歴史を持つ「Thomas Bradbury & Sons」は老舗の一つと言ってよいでしょう。 創業時にはMatthew Fenton & Coという名前でしたが、1795年にはThomas Bradburyをパートナーに迎えて、1831年以降にはThomas Bradbury & Sonsの名前に変わりました。 1820年にはロンドンへ進出し、19世紀の半ば頃にはコーヒーあるいはティーサービスの輸出も手がける大きな銀工房になっていました。 その後1943年にはAtkin Brothers Ltdに買収されて、二百年以上にわたる歴史に幕を閉じました。

このバラのモチーフは外国人にはピンと来ないかも知れませんが、英国人ならすぐに分かるチューダーローズになっています。 シルバーナイフの柄先に付いたバラを見た外人さんが英国人か、あるいはそうでないかを見分けるテスターとして使ってみたら面白いかも知れません。

英国史にあまり通じていない私たちには、見分けるのが難しいのですが、イギリスでは小中学校の歴史でチューダー時代を細かく教えますので、このチューダーローズは子供たちでも当たり前のように知っているモチーフなのです。 そういうわけで、子供の頃によほどお勉強が好きでなかった人を除いて、英国人なら普通は知っているモチーフと言ってよいでしょう。

大小二つのバラの花を組み合わせたデザインはチューダーローズと呼ばれ、バラ戦争後の英国の統合を象徴するチューダー朝の紋章となりました。 バラ戦争は赤バラを旗印とするランカスター家と、白バラのヨーク家が、新旧諸侯を巻き込んで互いに覇を競った中世末期の30年にわたる内乱で、結局は両家が共に戦いで消耗しきってしまったことから、漁夫の利を得たランカスター派のヘンリー・チューダーが次のチューダー朝(1485年〜1603年)を興しました。

19世紀のヴィクトリア期にはチューダー リバイバルの潮流がおこり、建築、家具、テキスタイル、そしてメタルワークの分野で、このチューダー ローズのモチーフが広く人気を博し、現在に至っています。

ところで、うちの娘が習ってくるイギリスの歴史教育は日本とずいぶん違っています。 かなり低年齢の段階から歴史の授業があって、歴史を体験して実感する側面が重視されているようです。

例えば、チューダー時代の勉強でしたら、児童や先生が全員でチューダーの衣装を真似して、コスチューム パーティーよろしく、チューダー時代のマナーハウスに遠足に出かけ、五百年前の暮らしを一日追体験してみるといった具合です。 あるいは、歴史事実を紐解いて、バラ戦争における最後の戦いである「ボズワースの戦い」についてポエムを作ってみるという課題もありました。 

ちなみに「ボズワースの戦い」というのは、日本史における関が原の合戦のような天下分け目の戦いでありました。 歴史の授業では戦闘詳報のような形で、この戦いの一日の経過が時間を追って教えられていたのにも驚きました。

古代エジプト史のクラスでは、ヒエログリフ(象形文字)を使って児童に自分の名前を書かせる実習をしていました。 歴史の勉強と言えば年号暗記がほとんどと思っていた私からは思いもよらない教育方法で、こんな歴史の授業ならとても楽しそうですし、新鮮でした。 

しかしちょっと考えるに、ヒエログリフで自分の名前を書いてみる経験をした子供達からの方が、将来、古代文字を自力で解読するような歴史上の大発見をしてやろうという意欲に満ちた人材が生まれやすいのではないでしょうか。 あるいはまた、多くのシャンポリオンやシュリーマンを生み出す教育かどうかは別としても、少なくとも、過去を追体験させるこうした歴史教育の成果が、イギリス人をひときわアンティーク好きにさせている根っこにあるように思うのです。

チューダーローズ(バラの花)&ドラゴン モチーフ スターリングシルバー ジャムスプーン

チューダーローズ&ドラゴン ジャムスプーン 裏面の様子
チューダーローズ(バラの花) モチーフ スターリングシルバー ナイフ

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