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No. 14987 スターリングシルバー クリスティングスプーン with フラワーレリーフ
長さ 13.5cm、最大幅 2.8cm、重さ 24g、ボール部分の深さ 8mm、柄の最大幅 1.35cm、柄の厚み 2mm強、1957年 シェフィールド、James Dixon & Son作、一万円

大きめなティースプーン サイズと思いますが、ティーやデザート用以外にも、普段使いの一本として使える万能サイズの銀スプーンとなりましょう。 クリスティングのお祝い品として作られたスターリングシルバー スプーンと考えられ、フラワーレリーフのデザインが可愛らしいのがポイントです。

ところが手にしてみると、ずっしり重たい感じで、重厚感あふれるシルバーウェアになっているのは、柄先から柄元まで全体にわたって厚みが2ミリほどあって、銀がしっかり使われた作りになっている為です。 24グラムという持ちはかりは、ティースプーンというよりはデザートスプーンやジャムスプーンの範疇に入る重量であり、この銀スプーンの特徴を示しております。 

クリスティングスプーンあるいはセットとは、洗礼式あるいは命名式のお祝いに子供に与えられた品です。 古くは、12使徒が柄についたアポストルスプーンがプレゼントされたりしていたようですが、19世紀の初めからは、デザートセットくらいの大きさの装飾的なナイフ、フォーク、スプーンのセットが用いられるようになりました。 また、加えてマグカップなどもセットに入っていることもあったようです。さらに19世紀後半以降はナプキンリングが加えられるセットもあったようです。

フランスなど大陸ヨーロッパ諸国のシルバーウェアと比較して、しっかりとした重たい銀器が多いのは英国シルバーの特徴で、この銀のスプーンはイギリス人の好みをかなり意識して作られた品であると感じます。 三角シェイプの角張ったシンプルデザインに加えて、銀を厚めに使ってこしらえてある様子を手にしてみたとき、私はそこにイギリス城砦の質実剛健な雰囲気を感じました。

余談ですが、ディズニーランドのシンデレラ城のようなファンタジー風なお城は、フランスやドイツにはあっても、イギリスにはまず見当たりません。 イギリスのお城は敵から攻められにくそうな実用重視の四角っぽい要塞風が多いのです。 シルバーとお城は違いますが、英国人の質実剛健好みには、けっこう長い歴史がありそうに思えるのです。

雪景色のOrford城を思い出したので、写真を探してみました。(写真三番目) 12世紀に英国王ヘンリー二世によって築かれたOrford城の内部は円筒形で、外部は18面体構造になっていて、Polygonal Shape(多角構造)と呼ばれます。 普通の四角い構造のお城より、敵に攻められた時には守りやすいのが特徴で、海辺の丘の上に建つOrford城は英国で一番最初に築かれたポリゴナルなお城だそうです。

Orfordはロンドンから北東へ約100kmのサフォーク州にある海辺の街ですが、英国アンティーク情報欄の「24. アンティークな英国パブ」にもこの地域の情報がありますので、ご参考まで。

柄の裏面にはJames Dixon & Sonのメーカーズマーク、1957年のデートレター、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そしてシェフィールド アセイオフィスの王冠マークがしっかり深く刻印されています。

James Dixon & Son は1806年創業の老舗で、ヴィクトリアンからエドワーディアンの頃にかけての有名シルバースミスの一つです。 シェフィールドで創業後、順調に発展し、1873年にはロンドン進出を果たしました。 1900年頃にはロンドンのお店は5つに増えていました、また1912年にはオーストラリアのシドニーにも支店を開いています。 1851年のロンドン万国博覧会には多くの作品を出品したとの記録が残っており、その後20世紀初頭にかけて、海外での展覧会にも出展し、パリ、メルボルン、ミラノ等で名声を博しました。 家族的な経営で職人さんの中には、親、子、孫…と5世代にもわたり、ここで仕事を続けた人たちもあったようです。

英吉利物屋ではヴィクトリアンの品を扱うことが多いので、五十年ほど前というと新しい感じもするのですが、当時を振り返ってみると、やはりずいぶんと古い歴史の中の時代であることが分かります。 

この銀スプーンが作られた前年には清浄空気法が定められております。 それにはロンドンで起こった有名な「Great Smog」、今ではちょっと考えられないような出来事が背景となっておりました。 1952年12月5日、ロンドンでは折りからの寒さの中、風が止み濃い霧がたち込み始めました。 この霧はそれから3日間 ロンドンを覆うことになります。 寒さで人々が石炭ストーブをどんどん焚くものですから、霧の原因となる微粒子核が撒き散らされて、霧がどんどん深くなっていったのです。 ものすごい霧で、2〜3メートル先はおろか、伸ばした自分の指先さえはっきり見えなかったと伝えられています。 映画館や劇場でもドアの隙間から霧が入り込んで、スクリーンや舞台が見えず、キャンセルが相次ぎました。 そして濃霧による交通事故や不清浄スモッグによる呼吸器障害のために、ロンドンで四千人もの死者が出る大惨事となったのです。 

昔からロンドンと言えば、霧の街として有名でしたが、「Great Smog」は長いロンドンの歴史の中でも最悪の出来事となりました。 そしてこれを契機に数年後の1956年には清浄空気法が定められることとなったのです。 石炭ストーブ時代の「Great Smog」のエピソードは今日では想像もつかない出来事ですが、この品が作られた時代に思いをいたす面白い手掛かりにはなるでしょう。

スターリングシルバー クリスティングスプーン with フラワーレリーフ




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