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No. 14921 エドワーディアン スターリングシルバー ブレッドフォーク with ピアストワーク
長さ 19.6cm、重さ 41g、最大横幅 3.6cm、柄の最大厚み 3mm、1903年 ロンドン、Josiah Williams & Co.作、二万七千円

今から百年以上前のエドワーディアンの時代に作られた、ピアストワークの美しいスターリングシルバー ブレッドフォークです。 透かし細工は手仕事で、糸鋸を引いたギザギザ跡が残っています。 マグニファイイング グラスで詳細に調べてみると、糸鋸を引いた跡も繊細で、細工のよい品であることが分かります。 

手仕事で糸鋸を引いていくのですから、職人さんの優れた技術と多くの時間がかかります。 現代のシルバースミスの方からお聞きしたことがありますが、ヴィクトリアンやエドワーディアンの手間のかかった丁寧な仕事は、現代の労働コストが上昇した英国では、大変なお金がかかり、もはや同じようには出来ないとのことでした。 そして、そもそもこれだけの技術を持った職人さんが現代ではいなくなっているのです。 

アンティークの楽しみの一つは、現代の品では到底望めないような素晴らしい手仕事の品に、時に出会えることだと思います。 写真の品にはアンティークでしか手に入らない美しさが備わっており、丁寧なハンドワークの細工の良さそのものが年月の経過を語っています。

ブレッドフォークとは聞きなれない品で、今日の食卓ではもう使われなくなってしまった、いかにもアンティークなシルバーウェアです。 ヴィクトリアンやエドワーディアンの時代のディナーテーブルでは、ロールパンやスライスパンをサーブするのに使われていました。 テーブルエチケットの変遷につれて、今ではなくなってしまったシルバーウェアは、昔の時代に思いを馳せるのに貴重で、話題性があって楽しいこともあり、アンティークシルバー愛好家にとってはコレクターアイテムとなります。 眺めていても楽しいエドワーディアン アンティークですが、パーティーの時などにサーバーとして登場させたら面白いでしょう。

柄の裏面には「Josiah Williams & Co.」のメーカーズマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、ロンドン レオパードヘッド、そして1903年のデートレターが刻印されています。

一般にヴィクトリア時代創業のシルバースミスが多い中にあって、この品を作ったJosiah Williams & Co.は、ジョージアンの時代に始まった老舗の一つになります。 1800年創業のJosiah Williams & Co.はブリストルのメーカーで、地方では最大のシルバースミスでした。 メーカーズマークは当時の共同パートナーであった二人、George Jackson & David Fullertonの頭文字GJDFが刻まれています。 今日でも中世の街並みや大聖堂が美しいブリストルは、16世紀にはエイボン川河口の貿易港として栄え、その後はイングランド南西部の主要都市として発展しました。 しかし大きな都市であったがゆえに、第二次大戦中の1940年11月24日にはドイツ軍による空襲を受け、Josiah Williams & Co.も工房を失い、残念ながら140年の歴史に幕を閉じました。

この品が作られた頃の時代背景については、英国アンティーク情報欄にあります「14.Still Victorian」の解説記事もご参考ください。

写真のアンティークが作られ、使われていた昔とはどんな時代であったのか、もう少し見てみましょう。 1903年といえば日露戦争の直前でありました。 『中央新聞 1903年10月13日付』の「火中の栗」という風刺画を見たことがあります。 コサック兵(露)の焼いている栗(満州)を、ジョンブル(英)に背中を押されて、日本が刀に手をかけて取りに行こうとしている風刺画です。 1902年には日英同盟が結ばれています。 ロシアはシベリア鉄道の完成を急ぎ、大規模な地上軍が極東に向けて集結しつつあった当時の状況が描かれています。

開戦後の翌1904年には、こんどは世界史上の大海戦の行方に関心が集まっております。 バルト海、北海、大西洋、喜望峰を経て日本へ向かうロシアのバルチック艦隊の動きが注視され、当時のイギリスでは日本海海戦の行方が大変な興味を持って見守られていたとの記録が残っています。

ロシアのバルチック艦隊は日本へ向けて航行中でした。 そして1904年10月にはイギリス沖合いの漁場ドッガーバンクで、漁船を日本の水雷艇と誤認したバルチック艦隊が、英国漁船砲撃事件を引き起こして、英国世論が激高する事態となっています。 

日本に向かって戦争に行くロシア艦隊が、途中で英国漁船を何百発もの砲弾で打ち払って、間違いと分かった後には救助もせずに通り過ぎてしまったのですから、誰だって怒るだろうと思います。 

当時の日本とイギリスは日英同盟を結んでおりましたが、ドッガーバンク事件を契機にイギリス世論もおおいに日本に味方しました。 そしてイギリス政府によるバルチック艦隊の航海妨害などナイスアシストもあって、日本海海戦に向けて有利な展開となったのは幸いでした。 

明治39年(1906年)には夏目漱石の『草枕』が出ております。 時代背景は日露戦争中ですので、ちょうどこのアンティークと重なっております。 東京を離れた温泉宿で非人情の旅をする画工の話ですから、当時の社会情勢がメインテーマではありませんが、それでも、出征していく若者を見送ったり、日露戦争や現実社会の影が背景に見え隠れしています。 昔の時代に思いを馳せるアンティークな資料として、私のお気に入りの一つです。 

エドワーディアン スターリングシルバー ブレッドフォーク with ピアストワーク

エドワーディアン スターリングシルバー ブレッドフォーク with ピアストワーク

エドワーディアン スターリングシルバー ブレッドフォーク with ピアストワーク

裏面の様子
エドワーディアン スターリングシルバー ブレッドフォーク with ピアストワーク

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