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No. 14832 エドワーディアン ファーン(Fern)パターン エングレービング スターリングシルバー ジャムスプーン
長さ 13.7cm、重さ 17g、ボール部分の最大横幅 3.5cm、柄の最大幅 1.25cm、1907年 シェフィールド、James Dixon & Son作、一万四千円

ボール部分にノッチ(切れ込み)構造は、オーソドックスなイングリッシュ ジャムスプーンのフォルムといえましょう。 ファーン(Fern)パターンは手彫りの彫刻で、華美に過ぎず、品のよさを感じさせます。 モチーフから判断しますと、クリスティングのお祝い品として作られたものかも知れません。

ブリティッシュ ホールマークがしっかり深く刻印されているのもよいでしょう。 ボール裏面のホールマークは順に、シェフィールド アセイオフィスの王冠マーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、1907年のデートレター、そしてJames Dixon & Sonのメーカーズマークです。

James Dixon & Son は1806年創業のシルバースミスで、シェフィールドで創業後、順調に発展し、1873年にはロンドンに進出しました。 1900年頃にはロンドンのお店は5つに増えていました、また1912年にはオーストラリアのシドニーにも支店を開いています。 1851年のロンドン万国博覧会には多くの作品を出品したとの記録が残っており、その後20世紀初頭にかけて、海外での展覧会にも出展し、パリ、メルボルン、ミラノ等で名声を博しました。

家族的な経営で、職人さんの中には、親、子、孫…と5世代にもわたり、ここで銀製品を作り続けた方もいらしたようです。 このジャムスプーンは今から百年ほど前の1907年作ですので、James Dixon & Sonがロンドン進出に成功し、ポッシュなシルバースミスとして人気も出て、一番勢いがあった頃の作品と言えそうです。

ファーン(Fern)パターンとは、シダ模様を指します。 19世紀のイギリスにおいては、稠密かつ精巧なナチュラルデザインとしてファーンが好まれ、コンサバトリーで育てる人気の植物となっていました。 ウォード箱を使ってさまざまな種類のファーンを収集することも広く行われておりました。 そうしたことが背景にあって、ファーンパターンはヴィクトリアン装飾の中でも特に人気の高いモチーフのひとつとなったのでした。 ヴィクトリアンのフラワーコード(花言葉)によれば、FernにはFascination(魅惑)、Magic(不思議な力)、Sincerity(誠意)といったコードがあてられています。

もともとは王宮庭園であったキューガーデンが、王立植物園として生まれ変わったのはヴィクトリア時代の初め頃でありました。 植物研究施設としてのキューガーデンが、ヴィクトリアンの人たちの植物好みを引っ張ったと言うこともあるでしょう。

写真のシルバーアンティークに施された植物文様には、百年ほど前の人たちの植物好きが色濃くは反映されているわけです。

アンティークを手にしていると、その品が作られた当時のイギリスとか、その頃の日本はどんなだったろうとか、あれこれ背景を考えてみたくなる性分です。 写真の銀スプーンが作られたのは、日本で言えば明治四十年のことで、当時の日本は日露戦争が終わって間もない頃でありました。 

夏目漱石の『三四郎』は、明治四十年夏の終りから翌年初までの東京を舞台にして話が進んでいきますので、まさに写真のアンティークが作られた頃のお話ということになります。

二年にわたるロンドン留学経験から当時のイギリスをよく知り、日本の文明開化について考えた漱石は、『三四郎』において広田先生に「いくら日露戦争に勝って一等国になってもだめですね。」と言わせています。 そして三四郎の感想は、「日露戦争以後こんな人間に出会うとは思いもよらなかった。」という時代背景なのです。

私には幕末の黒船来航から明治維新、日清&日露戦争を経て先進国の仲間入りを果たした日本のほぼ六十年間というのは、イギリスが大発展を遂げたヴィクトリア時代の六十年間に重なって見えます。 

明治とともに生きた漱石の作品を深く読むことで、時代の高揚に触れ、明治の精神を知ることを通して、百年ほど前のイギリスを振り返ってみる、これがイギリス人ではなく日本人である私の英国歴史の観察方法の一つです。

英国アンティーク情報欄にあります 「14. Still Victorian (百年ほど前のイギリスはどんな様子であったのか?)」の解説記事もご参考まで。

エドワーディアン ファーン(Fern)パターン エングレービング スターリングシルバー ジャムスプーン




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